ハーバード大の学生がこぞって使うテクニック!「相手をうまく説得する話術」とは?

ビジネス

更新日:2018/4/9

『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』(ジェイ・ハインリックス:著、多賀谷正子:訳/ポプラ社)

「レトリック」という言葉をご存じだろうか。なんだか聞いたことがあるような、ないような。これは「自分の考えや思いをうまく相手に伝えるための技術」、あるいは「相手をうまく説得する技術」を表す言葉であり、古代ギリシア時代に生まれた学問でもある。

 古代ギリシアの英雄やアメリカ大統領をはじめとする「時代のリーダーたち」は、このレトリックを駆使して様々な人々に訴えかけ、時代を動かしてきた。由緒正しき学問は、「人々を惹きつける話術」として古代から脈々と受け継がれてきたのだ。

『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』(ジェイ・ハインリックス:著、多賀谷正子:訳/ポプラ社)は、そんなレトリックの概要と活用する方法を説いた1冊だ。その反響ぶりはすさまじく、ニューヨーク・タイムズのランキング(=アメリカで権威のある書籍ランキングの1つ)でベストセラーになり、ハーバード大学の必読図書トップ10に選ばれたほど。

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 計30章にわたってレトリックを紹介する本書は見た目こそ「うおおおお」となるが、いざページをめくると実に読みやすい。なによりレトリックは、私たちの日常生活に潜む「身近な学問」であることを気づかせてくれる。2018年もついに春を迎え、新社会人として頑張る人、社内でちょっと立場が偉くなった人のため、本書の内容をほんの少しだけご紹介しよう。

■聞き手に耳を傾けさせる方法

 誰もが「自分の話に興味や関心を寄せてほしい」という願いを持っている。会社の会議や企画プレゼンに限らず、恋人や友達との日常会話でも一緒だ。相手に自分の話を心から聞いてもらうにはどうすればいいのか。そのためには「エートス」、つまり「人柄」を上手に使う方法がある。

 今や「アメリカの顔」になってしまったドナルド・トランプも人柄を用いて聴衆を説得した。「私はアメリカ国民と同じ価値観を共有していて、国民が願うアメリカに変える力がある」ということを、分かりやすい言葉で人々に訴え続けたのだ。仮に、人として素晴らしい人間性を持ち合わせていなかったとしても、語り手が聞き手を共感させ、それを実行するだけの力があると信じさせれば、人は話を聞いてくれる。

 このとき大切なのは、語り手が自分の利益ではなく聴衆の利益を思いやる人(=公平無私)であり、常にどのような場面でも何が正しい行いであるかを理解しているように見せなければならない(=実践的知恵)。

■説得の「好機」を逃さない

 どうしてもあの業務がしたい。どうしても君と付き合いたい。このようにどうしても何かを得たいとき、私たちは誰かを説得しなければならない。そのため「よっしゃ! 説得したるで!」と勇み足になりがちだが、タイミングが変われば結果は大きく変わる。

 たとえば上司から仕事の注意を受けた直後に「でも僕、あの業務がしたいです」と言い放てば、お説教のおかわりタイムが訪れてしまう。初回のデートで良い雰囲気になったと勘違いして告白したら、「お友達からスタートしましょう」と言われるに違いない。

 人を説得するには、どんなときも「好機」が存在する。たとえば「(1)物事が不確かなとき」。オバマ大統領は2期目の終盤まで比較的人気が高かった。国内の状態も決して悪いわけではなかった。だが、政府は機能不全状態で何も決定を下せないように見えた。この「不確かな好機」を狙って民衆の前に現れたのが、ドナルド・トランプだった。トランプ大統領は民衆を説得する「タイミング」も心得ていたのだ。

 また、「(2)状況が変わるとき、変わらざるを得ないとき」も好機だ。「会議が最後まで難航し、結局最後に発言した人の意見が採用されがち」という現象はこれによるもの。メンバーがあらゆる意見に心を惑わされた状態で、最後に発言する人が会議の内容をふまえて自分の意見を述べると、なんだかもっともらしく聞こえてしまう。

 そしてもう1つ、「(3)聞き手の気分が変わったとき」もチャンスだ。「もしものときに便利だよ」とスマートフォンを勧めても見向きもしなかった両親。しかし最近スマートフォンを手にした孫に「なんで持ってないの?」と聞かれて態度を一変してしまうことがある。

 どうしても誰かを説得したいときは、この3つのタイミングを逃さないようにしたいところだ。

■レトリックは最も身近な学問の1つではないか

 ここまで読んで、なかには「おや?」と思った読者もいるかもしれない。たしかに私もそう思った。本書で紹介されているレトリックの中には、うっすら感覚的に知っているものもあったからだ。だが個人的には、だからこそ本書はこれだけ反響の大きいものになったのではないか、と感じている。

 私たちが社会生活を行う上で最も基本的な行動が「会話」だ。日々それは磨かれ、それぞれの技術や生き方として身についていく。しかしそれをいざ「言語化」しようとすると、実に難しい。言語化できないものは、誰かと比べるのも難しいし、自分に何が足りていないのかも分かりにくい。

 本書はその言語化しにくいものをレトリックという学問と共に、非常に詳細に書き上げているのだ。私たちが毎日行う最も基本的で、最も必要とするスキルが、本書にすべて載っている。こんな本は世界中を探してもなかなかないだろう。だからハーバード大学が注目し、ニューヨーク・タイムズでベストセラーになったのではないか。

 レトリックとは、古代から脈々と受け継がれてきた、私たちにとって最も身近な学問の1つだ。それを上手に駆使する人が、きっとこれからもどこかの国やグループのリーダーになっていくのだろう。

文=いのうえゆきひろ