自らの体を差し出し、悪魔に愛情を求める孤独な少女。『この愛は、異端。』が問いかける、愛情の本質とは

マンガ

公開日:2018/4/6

『この愛は、異端。』(森山絵凪/白泉社)

 愛情とはこんなにも脆く、儚く、そして危ういものなのか――。『この愛は、異端。』(森山絵凪/白泉社)を読んだとき、おそらく誰もがそう思うはずだ。

 本作の主人公・淑乃は、事故で両親を亡くした孤独な少女。引き取り手がいなかった彼女は、親戚中をたらい回しにされ、「自分の居場所」がないことに打ちひしがれる。そんな絶望の淵にいたとき、救いを求めるかのように呼び出してしまったのが悪魔・ベリアルだった。一つ対価を払えば一つ願いが叶う。そして一生側にいる。悪魔のささやきは、淑乃にとっては何よりも渇望するものだったのだろう。本作では、そこからスタートするふたりの奇妙な関係を描いているのだ。

 ベリアルにとって淑乃は、魔力を得るための好物でしかない。彼女の体に触れ、キスを交わし、ときには激しく愛撫をする。つまりは、それが「対価」なのだ。それは淑乃も理解している。ベリアルが求めているのは、自分の体と魂だけ。けれど、それでも離れることができない。

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 3月29日(木)に発売された第2巻では、その関係がさらに混迷を極めていく。ベリアルが淑乃に抱いているのは「父性愛」に近いものなのか。また、淑乃はベリアルに「依存」しているだけなのか。各々に、自分の気持ちと向き合うことになる瞬間が訪れるのだ。そして、淑乃は気づく。悪魔であるベリアルに対する自分の本当の気持ちに。

「契約」という言葉が意味する通り、当初は目的のために一緒にいることを選んだはずのふたり。しかし、ときにぶつかり合い、なぐさめ合い、胸の内を吐露することで、その関係が複雑なものになっていく。これは淑乃とベリアルに限ったことではないだろう。

 本作で問われているのは、「愛情の正体」だ。執着、依存、憎悪……。愛情にはそういった負の側面が大いにある。それを悪魔と孤独な少女との関係に置き換えることで、浮き彫りにしようとしているのだ。だからなのだろう。ファンタスティックな設定によって語られるエピソードの一つひとつが、こんなにも心を揺さぶって仕方ない。淑乃やベリアルは、現実世界で他人との愛に振り回されているぼくらの姿そのものだ。

 本作を通して愛情の本質に触れたとき、あなたはいったいどう感じるだろう。その恐怖に慄くか、それでも欲するのか。愛情に「異端」なものなどあるのだろうか。きっとその答えは、作者・森山絵凪さんが描く淑乃とベリアルの旅の果てに明らかになるはずだ。

文=五十嵐 大

ひとつ願いを叶える代わりに、いただくのは「少女の肉体」――。淫欲な悪魔と孤独な少女が織りなす、「異端」な愛憎劇の行方は?