振り返れば奴がいる? あなたの部屋にもいる奇妙な同居者《生きもの》たち

スポーツ・科学

2018/4/9

『家の中のすごい生きもの図鑑』(久留飛克明:著、村林タカノブ:画/山と溪谷社)

 夜、自宅でひとりくつろいでいる時、ナニモノかの気配を感じる。おかしいな、この部屋には今、自分しかいないはずなのに……。嫌な予感にもしやと振り返り、「そいつ」の姿を見つけた時の絶望ときたら――。

「そいつ」の正式名称を書くと、字面を見ただけでこのページをそっと閉じてしまう人がいるかもしれないので、仮に「G」としておこう(ストレートすぎるけど)。

 その「G」をはじめ、私たちにとって最も身近な生きものといえる、家の中や周辺で暮らす生きものたち64種について、意外な暮らしぶりや生態を紹介したのが『家の中のすごい生きもの図鑑』(久留飛克明:著、村林タカノブ:画/山と溪谷社)だ。
 本書は、このところ人気の、おもしろ系生きもの図鑑の中でも異彩を放っている。何しろ、それぞれの生きものの紹介文は、彼ら自身がその暮らしを、なぜか関西弁で自己紹介していくスタイルで書かれているのだ。

「めっちゃ跳ぶで。壁にぶつかると死ぬけどな」(マダラカマドウマ)
「あんたら誤解しとるで。私らなんの悪さもしない」(ハエトリグモの仲間)
「あんたらの家食べるで。それが栄養やから」(イエシロアリ)

 といった調子。コミカルな台詞とわかりやすいイラストがあいまって、次はどんな生きものの登場だろうと、マンガを読むようにすいすいとページを繰ってしまう。まあ、同居していることに少々げんなりする生きものもいるのだけど、それもまた怖いもの見たさということで。

「小さすぎて、見つけられんやろ」(チリダニの仲間)

 え? 「うちは清潔にしてるから、家の中に虫なんかいない」って?

 いやいや、本書を読めば、部屋の中は人間以外の生きものたちでいっぱいだということがいやというほどわかるはず。たとえばチリダニの仲間は、1平方メートルに平均10匹いるそうだ。さらに、「チリダニが増えたら私らも増えるで」とは、チリダニを食べるツメダニの弁である。

 また「家の中掃除してきれいにしとかんと、私らがうろうろしているから、気をつけや」というイエヒメアリは「1匹おったら、1万匹の家族がおるかもな」とおそろしいことを平気でいうし、夏の暖かい時期ならたった2週間で成虫になるというヒトスジシマカは「小さい水溜りでも大発生できるで」と豪語する。

 そして、「たぶんやけどいちばん嫌われていると思うわ」と、本書中でも自分の立ち位置をよくわかってらっしゃる「G」は、どこから家の中に入ってくるの? という問いに対して、

「飲食店で、あんたのかばんや服の中に潜り込んだりするで」(G)

 という戦慄の回答を返してくれている。

 一緒に暮らしてなにか害はある? という問いには「『気持ち悪い』っていうくらいちゃうか?」という軽い答え。……うーん、いやそれが重要なとこだから! とは思うが、実際のところ、害のあるように見える生きものでも実際には「家の警備員! みんなの嫌いなGもつかまえるで!」というアシダカグモのように、害虫を駆除してくれるなどの形で、人間の味方になってくれるらしい。

 著者の久留飛克明(くるび・かつあき)氏は、NHKラジオ「夏休み子ども科学電話相談」にも出演しており、保健所で環境衛生を担当してきた後、昆虫館の館長を務めてきた。ちょっと怖い、と感じる人も多い虫などの生きものについて、「知らないからこそ怖いのであって、全部が全部危険というわけではないし、本当の姿を知れば不安も減るはず」と述べている。

 人間も含めて生きものたちは皆かかわり合いながら生きている。それは家という環境の中でも同じ。共に生きていくしかないのだから、嫌いだからといって目をふさがずに、相手を知ることが大事だろう。

「どや? ちょっとは怖くなくなったか?」(G)

 気のせいだろうか、本書中の「G」から声が聞こえてくる。「まだまだ知らんこともあるやろ。どや、一緒にちょっとだけ付き合わへんか?」

「……悪いけどあんたとは遠慮しとくわ。アシダカはん、やっちゃって」

文=齋藤詠月