三毛猫が藩主の奥さま? 人と猫との大騒動。『バッテリー』の作者が挑んだ、新感覚の娯楽時代小説!

文芸・カルチャー

2018/4/20

『にゃん! 鈴江藩江戸屋敷見聞帳』(あさのあつこ/白泉社)

 もしあなたの上司や同僚が猫だったら、どうする?

 ありえないって? その通り、現実にはありえない。あさのあつこが4月20日に刊行した『にゃん! 鈴江藩江戸屋敷見聞帳』(白泉社)は、そんなありえない出来事にもつい思いを馳せたくなってしまう、不思議なテイストの時代小説だ。

 江戸時代、裕福な商家の娘であるお糸は、わけあって3万石の小藩・鈴江藩の大名屋敷で女中奉公をすることになる。屋敷に上がって間もないある日、お糸は藩主の正室・珠子に呼び出された。当時、殿さまの正室と町方の娘とでは天と地ほどの身分差がある。かしこまって平身低頭するお糸だったが、おそるおそる目を上げると、座布団にちょこんと座っていたのは、ええっ、まさかの三毛猫!?

 珠子の正体はなんと猫、それも「猫族なんだけどちょいと不思議な一族」の姫君なのだった。1000年もの長命をほこる珠子は(それでも若い方らしいが)、藩主の長義にひと目ぼれ。人間の女性に姿を変え、鈴江藩に嫁いできたという。しかし幸せな愛の巣には、手ごわい敵がうじゃうじゃ。公儀(幕府)の隠密が入りこみ、藩主の叔父が権力の座につこうと陰謀をめぐらせる。「公儀だろうが、叔父上だろうが、負けるもんですか。あたしが殿さまをお守り、お支えする」というけなげさに心打たれたお糸は、珠子のために尽くそうと決意するのだった、というのが冒頭部分のストーリー。以降、鈴江藩のお家騒動をめぐって、抱腹絶倒にして波瀾万丈、上を下への大騒ぎが巻きおこる。

 ところで、珠子はたった一人(一匹)で鈴江藩に嫁いできたわけではない。油断するとしっぽや耳が覗く奥女中のおさけとおかか、頼もしい虎族の化身である上﨟の三嶋など、ちょっと普通でない者たちが、珠子のそばには侍っている。普通でないといえば、外国かぶれで女ぐせが悪い珠子の父親・権太郎(だでぃー)も強烈なキャラクター。どうやらこの世の裏側には、わたしたちの知らない世界が広がっているらしい。お糸がそこに触れられたのは、生まれつき見えないものを見る力があったからだ。

『バッテリー』『No.6』などの力強い青春小説で知られるあさのあつこは、作中にユーモアの要素を織り交ぜることでも知られており(たとえば『さいとう市立さいとう高校野球部』がそう)、本作もそうしたテイストが濃厚だ。権太郎と三嶋のどつき漫才、珠子と長義のラブラブぶり、事件の鍵をにぎる悪役とのディスり合戦など、「あさの先生、そこまでやりますか!?」と突っこみたくなるようなギャグが満載で、底抜けに明るい作品に仕上がっている。

 そして忘れちゃいけないのが、作品における猫成分の濃さ。可愛い猫に囲まれて暮らしたい、猫と会話をしてみたい、猫たちと一緒に働きたい。本作はそんな猫好きの夢想を、バーチャルに叶えてくれる小説でもある。

 ハラハラドキドキの時代エンタメ、というよりあえて古風に「痛快娯楽活劇」とでも呼びたい本作は、猫小説のアンソロジー『てのひら猫語り』所収の短編と、「WEB招き猫文庫」の連載作品をまとめたもの。あさの作品のファンはもちろん、世の猫好き、おばけ好きにどう受け止められるのか、反響が楽しみだ。

文=朝宮運河