あなたの「鉄分」はどれくらい? 今日の通勤通学から使える鉄道知識の“サプリメント”

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公開日:2018/4/12

『鉄道ふしぎ探検隊』(河尻定/日本経済新聞出版社)

 あなたの周囲に、「鉄分が濃い」人はいないだろうか。ここでいう鉄分とは、不足すると貧血になってしまう、“元素記号Fe”のことではない。気づくといつも電車を目で追いかけていたり、旅行や出張の時にやたらと乗り換えに詳しかったりする人がもつ、“鉄道趣味の素養”のことである。

 これがクハとかモハといった専門的な単語に反応するほどの濃さになるといわゆるマニアだが、そこまでではなくとも、あなたには幼い頃走る電車に目を輝かせた記憶がないだろうか? そうであれば、少しでも鉄の血が流れているといえる。
 そんな人へおすすめしたいのが、『鉄道ふしぎ探検隊』(川尻定/日本経済新聞出版社)だ。本書は、日本経済新聞記者である著者が日経電子版に連載中の、東京の地理や歴史などの雑学を扱うコラム「東京ふしぎ探検隊」から、鉄道に関するテーマをまとめ直して大幅に加筆したものである。

 鉄道に関する雑学本はそれこそ無数にあり、中には、鉄分が「濃い」人にとっては既知の、ネットで簡単に調べられるような内容のものも散見される。しかし本書は綿密な取材に基づいた新たな知見も多く、詳しい人にとっても読み応えは十分だろう。

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■誰もが「ちょっと」気になっている鉄道のふしぎ

 JR東京駅を利用したことがある人は多いだろうが、東海道新幹線の3本のホームのうち1本だけが大きくカーブしているのをご存じだろうか。本書では、その理由を過去の資料も参照しながら解き明かしていく。そこで見えてくるのは、幻の「東北~東海道新幹線直通計画」だ。東京駅を基点に東海道新幹線から東北新幹線へつなげるため、ホームはあえて曲げてつくられたのだという。
 この他にも…、

・東京駅はなぜ京葉線のホームだけが遠く離れているのか?
・池袋駅はJR線を挟んで東に西武鉄道、西に東武鉄道の駅があるが、こんなややこしい構造になっているのはなぜ?
・山手線は「やまてせん」「やまのてせん」のどちらが正しい読み方なのか?
・快速と急行と快速急行、一番速いのはどれか?

 などといった、別に知らなくても困らないが、知っているとちょっと得した気分になる、あるいは人に教えてあげたくなるような知識が本書には満載だ。

 未完成に終わった幻の路線に関する記事も興味深い。京王井の頭線を吉祥寺から延伸して西武池袋線に接続する計画や、渋谷から成城への路線計画、さらには東武東上線の新潟延伸構想などである。もし開通していたら、街や人の流れはどうなっていただろう。あり得たかもしれないもう一つの世界を想像するのは楽しいものだ。

■ふだん使っている駅や電車を見る目が変わる?

 鉄道から始まって、「関東地方の定義は? 東日本・西日本の境界は?」など地理の話へ広がっていくような章もあるが、それは本書のベースになった連載記事が、対象を鉄道に限定していないためだろう。鉄道趣味にはさまざまなジャンルがある。電車を降りてぶらりと街歩きを楽しむタイプや、鉄道にまつわる歴史的うんちくや雑学の小ネタに知的好奇心を刺激されるタイプの方にとっては、どれも満足できる内容のはずだ。
 今まで鉄の血の自覚がなかった方も、街歩き本のつもりで手に取ってみてはいかがだろう。毎日の通勤通学や休日に何気なく利用している駅や電車にもさまざまな秘密が隠されていると思えば、退屈だった移動がもっと楽しくなること請け合いだ。

 ただし鉄分補給の結果、いきなり「濃く」なってしまっても、各自の自己責任と願いたい。

文=齋藤詠月