平均以下の成績、有名私立中学退学、熱中したのはテニスだけ…楽天・三木谷浩史の子ども時代

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公開日:2018/4/12

『問題児 三木谷浩史の育ち方』(山川健一/幻冬舎)

 三木谷浩史といえば、日本最大級のショッピングモール・楽天市場などを傘下に持つ楽天グループの創業者だ。創業当初は楽天市場だけの展開だった楽天は、M&Aを行いながら事業拡大を続け、現在は銀行、保険、証券、クレジットカードなどのグループ事業を持つまでに成長した。さらに2005年にはプロ野球球団の経営にも参加。そんな楽天の創業者なら子どもの頃からさぞ優秀だったに違いない。そう思う人が圧倒的に多いのではないか。しかし、大方の予想に反し、三木谷氏は問題児だった。中学でタバコを吸い、競馬、パチンコ、麻雀に入れ込んで、父親の財布から金を抜き取っていた。本書のカバー裏には、三木谷氏の高校時代のものと思われる通知表が載っているが、並んでいるのは2や3の評定ばかり。順位は、40人中39位と下から数えた方が早い。そんな三木谷氏がいかにして現在の地位を築くに至ったか、その原点を探ったのが『問題児 三木谷浩史の育ち方』(山川健一/幻冬舎)である。

 三木谷浩史の父は経済学者、母は戦前に外国生活を経験したこともあり、大学教育も受けている才女だ。しかし、本人は決してエリート教育を受けたわけではない。「勉強しろ」と強制することは一度もなかったが、道に外れるような行為があったときは家に代々伝わる日本刀で切腹を迫ったこともある両親だったという。

 本書では三木谷氏の生い立ちや家庭環境について多くのページが割かれているが、個人的に興味深かったのは、日本の教育について語っている章である。楽天は、社内公用語を英語にしたというニュースが記憶に新しい人もいるだろう。「公用語を英語にしたところで何が変わるのか」という疑問を持った人も多かったと思われるが、三木谷氏は「グローバル時代だから」という短絡的な発想でこのような施策を行ったわけではない。これまでは、日本国内だけでもそれなりの市場があり、労働力も確保できていたが、今後、社会の変化のスピードに対応しつつ会社を成長させていくためには言葉の問題は大きなハードルになると考えたのだ。世界中から優秀な技術者を獲得するというIT企業ならではの、もっと本質的な問題解決のために導入された。社内の公用語は英語だが、思考能力を養うためには国語が重要だと述べている。

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 さらに興味深いのは、AI活用に関する言及である。勉強とは苦しいことをやるものだ、という考え方が浸透しているが本来は楽しみながら学ぶことの方が重要だ。専門教育こそAIにやらせ、学校は生身の人間を最大限に使えるリベラルアーツを教える場所にするべきだとの持論を展開している。三木谷氏は自分のような人間が注目されるのは、それだけ今の日本に思い切ったことができる人材が育っていないからで、日本の将来を明るくするためには教育の在り方を変えることが最重要、とも述べている。

 三木谷氏が行っていることは自社の経営だけではない。第二次安倍内閣の成長戦略のグランドデザイン策定に参加したり、先進的ながん研究に対して個人で多額の寄付を行ったり、東北楽天イーグルスでは東北からの人材発掘に力を入れて地元の人に愛されるような球団を作ったりしてきた。優秀な経営者でも、自社のことにしか関心がない人は多いものだ。経営者としてはそれでも全く問題はない。しかし、世の中を良くするためにはどうすればよいかを考え、実行することのできる人物のもとには、自然と人とお金が集まる。三木谷浩史は日本国内で有数の資産家だが、富める者の責務、ノブレス・オブリージュを果たしていると感じた。こうした人物は社会にも認められるので、今後さらなる繁栄が期待される。

文=いづつえり