美大に行ってたら、もっといい人生だった?

マンガ

公開日:2018/4/14

『美大とかに行けたら、もっといい人生だったのかな。』(あらいぴろよ/光文社)

「何者かになりたい」「誰かが私の才能を見つけてくれるはず」なんて、心のどこかで自分はトクベツな存在だと思いたかった、若かりし頃。結局、誰にも見つけてもらえないまま、理想と現実のギャップのはざまで悩んでいる人も少なくないと思います。

『美大とかに行けたら、もっといい人生だったのかな。』(あらいぴろよ/光文社)は夢がかなわないことを、運や他人のせいにしていた、作者・あらいぴろよさんの葛藤を描いたコミックエッセイです。

 高校卒業時のあらいさんは「世界が私を見つけてくれるはずだから」と、美大には進まず、自力で専門学校を出たあと「エロもなんでもありの安月給で激務」なデザイン会社に入社。理想と現実のギャップに苦しみながら日々の業務に追われ、イラストレーターになる夢にも本気を出せずにいました。

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 ルームメイトに「どうしてイラストレーターになりたいの? 絵が好きなんでしょ」と尋ねられても「いや…まあ絵を描くのはそれなりに楽しいけど…好きかって聞かれると…ん〜…」と、言葉が濁り、最後には“美大出身ではないからムリ”を言い訳にする始末。

 そんななか、あらいさんの会社に新たに入社してきたのが“美大出身”のB子さん。彼女は、いろいろな意味で「すごい人」でした。

 以下、B子さん珠玉(?)のセリフ集です。

「これからの時代ゆとり世代が増えますから、そっちが合わせる必要があるんですよ!?」

「美大も出てないぴろよんさんに教わることは特にないと思うし だいたい私、ぴろよんさんのこと生理的に嫌いなんですよね〜 仕事とはいえエロ系のデザインなんてよくできますよ」

 強烈キャラのB子さんは、なかなかパンチのあるセリフや行動を繰り出すため、彼女の教育係となったあらいさんと事あるごとに衝突してしまいます。そんななか、デザイナーとして独り立ちをした元先輩・A子さんに背中を押され、あらいさんもイラストレーターとしての独立を決意。

 イライラの元凶と思われたB子さんと離れ、念願のイラストレーターになったあらいさんを待っていたのは“満たされない自分”との戦いでした。

 同作の後半では、あらいさんが感じている「美大」へのコンプレックスや「身近な人への苛立ち」を起点に、自分の内面と向き合う姿が描かれます。しかし、彼女のように「私も◯◯だったら認めてもらえるのに」と考えたことがある人は少なくないはず。

 筆者自身も、あらいさんの葛藤を見ていくうちに、自分にとっての“B子さん”は誰か、コンプレックスの根底にある自分の本性や願望など、ずっと目を背けてきた現実を考えるきっかけになりました。

「何者かになりたい」ともがき苦しんでいる人に、ひとつの答えを提示してくれる一冊です。

文=丸井カナコ(清談社)