『火垂るの墓』を急きょ放送…高畑勲監督の訃報を受け、金ローの裏側で何が起こったのか【ターニャの映画愛でロードSHOW!!】

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公開日:2018/4/15

「火垂るの墓」 © 野坂昭如/新潮社,1988

■放送作品を急きょ変更した理由

 こんにちはー、「金曜ロードSHOW!」プロデューサーのターニャです☆

 今回は、『火垂るの墓』について。もともと4/13に金曜ロードSHOW! でお届けする映画は『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』の予定でした。……先週金曜日までは。

 みなさますでにご存じかと思いますが、6日の金曜日、高畑勲監督が亡くなったとの報を受け、急きょ対応を検討、監督の代表作である『火垂るの墓』を放送することにしたのです。

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 訃報を聞いたとき、驚きとショックを受けるとともに、どうしよう、と思いました。高畑監督の作品を何年にもわたって放送してきた「金曜ロードSHOW!」として、何かしなければ、という考えが反射的に浮かんだのです。とはいえ、放送ラインナップを直前に変更するのは、簡単なことではありません。多くの関係者を巻き込んでの大作業も発生しますし、何よりも発表済みの放送予定作品を楽しみにしてくださっているみなさんをがっかりさせてしまうからです。

 でも、関係者で話し合い、やはり『火垂るの墓』をお届けしよう、ということを決めました。何度も何度も高畑監督の作品を放送してきた番組として、心からの追悼と敬意、感謝の気持ちを込めて、最大限できることをすべきだ、と考えたのが最大の理由です。

「火垂るの墓」 © 野坂昭如/新潮社,1988

■「金曜ロードSHOW!」の存在意義

 もうひとつ、大切な理由があります。それは、「金曜ロードSHOW!」という番組のあり方に関わることです。

 私は「金曜ロードSHOW!」という多くの方々に愛される老舗番組を預かる身として、どうすればより番組を楽しんでもらえるか、ということをいつも考えています。そのためには、「視聴者のみなさまが観たい映画を観たいタイミングでお届けする」ということが何よりも重要だと思います。テレビは時々刻々と変わる時代の状況や「気分」に沿って、視聴者のみなさまの「見たい」という想いにどう応えていくか、が生命線ではないかと思うのです。

高畑勲監督という、世界的なアニメーション界の巨匠が亡くなった今、監督の功績を改めて称え、作品をお届けすることが、金曜ロードSHOW!としての最大の追悼になるのでは、という思いです。

一方で、コナンファンのみなさま、『パシフィック・リム』を楽しみにしていただいているみなさまからは、厳しい声をいただいていることも事実です。本当に申し訳なく思います。

「火垂るの墓」 © 野坂昭如/新潮社,1988

■私の知る高畑監督、そして作品づくりへの想い

 私は、高畑監督と直接仕事をご一緒したことが一度だけあります。2015年の3月、『かぐや姫の物語』の初放送の際、インタビューを受けていただいた時にお会いしたのです。柔和な表情で丁寧に質問に答える姿が印象的でした。私が報道時代に中東に駐在していたことをお伝えしたとき、興味津々な様子で、逆に質問を投げかけられたことが忘れられません。

 インタビューで高畑監督は、3DCGアニメーションが隆盛をほこる今、平面でアニメーションを表現する意味について熱く語ってくれました。

 絵で描いたもの、つまり線で描いて色を付けたものは本物には見えない。だからこそ、その絵が描くものの裏側にある「本物」を感じられる、そういう気持ちを呼び起こすのです。

 つまり、平面で書かれた絵は実物そっくりではありませんが、観る人の「想像力」を刺激し、本物そっくりに作られたCGよりも一層、「本物」を感じさせる、ということなのだと私は理解しました。平面で描くアニメーションだからこそできる表現があり、そこには伝える力があるということを作品で示してきた高畑監督ならではの、説得力がある言葉だと感じました。それは、リアリズムにこだわり、徹底的な取材をしたうえで、シーンを重ねていく監督の映画演出につながる話だと思います。さらに監督は次のように語りました。

 特別な世界、見たことのない世界を自分が描きたい。

 取材当時79歳だった監督のパワーと、たぎるような情熱に本当に驚かされた時間でした。

「火垂るの墓」 © 野坂昭如/新潮社,1988

■つらい映画だけれど……それでも観てほしい

 『火垂るの墓』については、説明を要しないほど日本人には馴染みのある作品なのではないでしょうか。第二次世界大戦当時の神戸を舞台に、激しい空襲に晒されながら、14歳と4歳の2人で生き抜こうとする兄妹の物語です。「悲しすぎて見られない」といった声も耳にします。確かに、涙なしには観られない作品です。でも、観たことのある方でも、あらためて観ていただければと思うのです。かつて見たときと環境が変わると、感じ方がきっと変わり、あらたな「気づき」があると思うからです。

 もちろん、未見の方はこの機会にぜひご覧いただきたいと思いますし、高畑監督が亡くなった今、作品を鑑賞することで監督を偲び、その想いを感じることには、きっと意味があると私は信じています。

 まさに、不朽の名作と呼ぶにふさわしい、『火垂るの墓』を、今こそ、ぜひ。

文=citrus 日テレ『金曜ロードSHOW!』プロデューサー ターニャ