【今日は地図の日】描かれたのは「幻の世界」。伝説と誤解とペテンと怪獣のスペクタクルロマン!

文芸・カルチャー

2018/4/19

『世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語』(エドワード・ブルック=ヒッチング:著、関谷冬華:訳、井田仁康:日本語版監修/日経ナショナル ジオグラフィック社)

 4月19日は「地図の日」。今から200年以上も昔、1800年4月19日に、伊能忠敬が蝦夷地の計測のため、江戸を出発した日に由来する記念日である。

 地図が発明される前、「世界」は拡がり続けていた。地平線の終わりも、海の果ても、その先にある新大陸も知らなかった人類が思い描く「世界」には終わりがなかった。

 けれど、地図を描き始めると「世界」の拡大は止まってしまった。陸と海の境目、山や川や隣町がどこにあり、海の向こうに人が暮らせる土地があると知ったことで、「人が暮らす場所」は広がったが、同時に「世界」のサイズもわかってしまったのだ。

『世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語』(エドワード・ブルック=ヒッチング:著、関谷冬華:訳、井田仁康:日本語版監修/日経ナショナル ジオグラフィック社)は、そんな「まだ世界が拡がっていたころ」の人類がそこにあると信じていた「幻の世界」への冒険の書である。

 本書には、「実在しない」国、島、都市、川、山脈、大陸、人種などが記された130点以上もの古地図や図案が掲載されている。

 誰でも知っている「アトランティス」をはじめ、南米の黄金都市「エルドラド」、北海道の東にあったという「ガマ島とカンパニーズ島」など、その誕生の由来や真相などは、実に興味深く、それぞれにドラマがあるし、現代マップにはない、褐色のカンバスに色彩豊かに描かれた「幻の世界」は、1枚の絵としても目を楽しませてくれる。

 現代のように測量技術や衛星写真などがない時代に、世界中の人々がありもしない国や島の地図を信じてしまったのは理解できる。逆に気になったのは「なぜ、幻の島や国が勝手に生み出されたのか?」だ。誰かが間違えなければ、誰かが捏造しなければ「幻の世界」など生まれないのだ。

 読み進めていくと、「幻の世界地図」の成立には、いくつかのパターンがあり、いくつかの要因原因があることがわかる。「神話や伝説、伝承、宗教観」「ここに道や川があったら便利だなという希望の図案化」「金や名誉のための捏造」…分析はキリがないが、極端に言ってしまえば——ウソと妄想——これが「幻の世界」を生み出したのである。そんな中でも、「作り物」だと切り捨ててしまうには、あまりにも素晴らしい、愛すべきウソつき探検家と、地図職人の妄想世界を紹介しよう。

■怪物マニアの学者が作った海の怪物マップ「カルタ・マリナ」

 時代は15世紀。スウェーデンの宗教家、歴史学者、地理学者のオラウス・マグヌスによる『海図および北方神秘誌』は、当時の人々に多大なる影響を与えた北欧地図である。9枚の原版からなる、125×170cmもある巨大な地図の海や陸地には、無数の「怪物」たちが所狭しと描かれている。特に、海の怪物たちのインパクトが強く、『カルタ・マリナ』とも呼ばれるこの地図は、世界に2枚しか現存しないという超レアものだ。

 オラウスは「怪物だらけの海」を作るために、多くの船乗りたちに話を聞いて回ったり、1485年に発行された『健康の園』などの中世の動物寓話などを読んだり、民間伝承を調べたりと、情報を集めた。そして、怪物たちを紹介するために名前と解説文を添えている。その一例を挙げると…

ウミミミズ:長さ30~40フィート(9~12m)のウミヘビ
「海の中をヒモのように進むため、どこに行くのかわからない。怪物の皮膚のいちばん柔らかい部分に触っただけでも、触れた指が腫れ上がる」(ちなみに、天敵はカニで、ハサミで挟まれると逃げられない)

アヒルの木:木になった実から孵るアヒル
「様々な形の殻に包まれ、木に張りついたコケのようにくちばしでぶら下がり、やがて体が羽毛で覆われると、水中に飛び込むものも、空に飛び立つものもいる。(中略)アイルランドのある地域の司祭や信仰者は、この鳥は肉ではないとして断食の期間に食べた」

ウミメウシ
「巨大怪物のウミメウシは、力が強く、怒りっぽい乱暴者だ。自分とそっくりの子を産むが、2匹以上の子を産むことは少ない」

…と、まるで『全怪獣怪人大百科』(ケイブンシャ)のような解説文と、豆知識の付け加えがたまらない。

 もっとも、オラウス本人は、大真面目に「海洋生物の科学的知識を正確に世の中に広める」ために地図を作成したのであって、実際、船乗りたちは、この地図を見て、怪物を恐れながら航海したそうな。世が世なら、「Pokémon GO」ならぬ「カルマリGO」が作られていたかもしれない。うーん、ロマン。

■ロンドンを湧かせたペテン師の島「フォルモサ」

 本書には、何人もの「ウソつき」が登場するが、フランス人ジョルジュ・サルマナザールは、最高のペテン師である。

 サルマナザールは、東アジアの島国「フォルモサ」から、「イエズス会の司祭の手でさらわれ、連れてこられた、初めてヨーロッパにやってきたフォルモサ人」であると、大ウソをついた。

 1704年にこのペテン師が出版した『台湾誌』には——フォルモサの首都は「テメンツァ」で、「人々は陰部だけ、金か銀の板で覆っている」「ヘビ肉を常食とするが、夫婦関係で不貞があった場合は、浮気した妻を夫が食べる権利がある」——といった話、複婚制や人身御供、幼児殺人などといったショッキングな「風習」が詳しく記され、人々の注目を集めた。

 サルマナザールは、講演をしながら各地を回り、ときには「それウソじゃない?」というツッコミも受けたが、巧みな話術でピンチを切り抜けたという。

「(サルマナザールの)肌が白すぎるだろ?」と指摘されると「フォルモサ人は地下で暮らすから色白」と答えたらしい。

「地下に光を取り入れる煙突が必要なはずで、熱帯地域の日光は真下まで差し込んでくるはずだ。光を浴びてるのにそんなに白いのか?」と、かなり厳しくインコースを攻められても、「フォルモサの煙突は螺旋状だから光は届かない」と、打ち返した。

 結局、最後には「ウソの罪深さ」を反省し、カミングアウトしたというが、筆者がその時代に生きていたら、この人には色々と話を聞いてみたいし、1本の映画が作れそうなナイスキャラである。

「幻の世界」を生み出した「ウソ」には、金や名声などが絡みついているし、その地図のせいで危険な航海に出たり、生命を落としたりした人も多くいて、実際には血生臭さを感じる。それでも、地図を開いたときに人が感じる「未知の世界への憧れ」や「世界の広さ」は、心を踊らせてくれる。

 今度、知らない街に出かけるときは、google mapを閉じて、白い紙とペンを持っていこう。歩いて記した線をつないで行ったら、そこには「幻の世界」が見つかるかもしれない。

文=水陶マコト