色彩の意味を知ると、歴史の面白さが倍増する! 鮮やかな色の世界へようこそ

文芸・カルチャー

公開日:2018/4/18

『日本の色のルーツを探して』(城一夫/パイインターナショナル)

『日本の色のルーツを探して』(城一夫/パイインターナショナル)は、「日本の伝統色」といわれる色彩のルーツがどこからきて、どのように混じり合い、変化してきたかを探る、色と歴史の関係を綴った一冊だ。

 そもそも日本人は、「色」をどのように捉え、建築、衣服、仏像や曼荼羅といった文化的・宗教的な創造物の中に取り込んでいったのか。それは単純な「好き嫌い」や「流行」ではなく、明確な「意味」を持って用いられていたことが多かったようだ。

 例えば、平安の女房装束である「襲(かさね)の色目」。

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 季節に合った色合いの着物を重ねて着て、その「色違いの重ね着」の組み合わせに「桜襲(さくらがさね)」「青朽葉(あおくちば)」「移菊(うつろいぎく)」など、風流な名前がついていた。
 こういった色の組み合わせは、単に個人の趣味嗜好ではなく、季節やTPO(貴人の前だとか、誰かが亡くなったとか)に合わせて着られていたのだ。

 余談になるが、神社の鳥居が基本的に「赤」なのは、赤が魔除けの色であり、呪術的な役割を持っているからだという。

 本書ではそういった、日本史における「色」の見方を説明しつつ、全編フルカラーなので、色彩の美しさにうっとりとしながら、読んで興味深く、眺めて満たされる内容となっている。

▲日本の桃色(ピンク)の系譜

 古代には、まだ「桃色」という名称はなく、桃色は桃の花を摺りこんで着色したので「桃染(ももそめ)」「桃花褐(つきそめ)」と呼ばれていたそうだ。現代では「女性の色」としてのイメージが強いが、平安時代に成立した『令義解(りょうのぎげ)』(律令の注釈書にあたる書物)によると、衛士(宮廷の警護をした兵士)の服の色に「桃染」が採用されている。衛士は白い布の帯に脛(すね)当て、そして桃染の衫(ひとえ)を着用することが規定されていた。

 桃色と白……現代人の感覚からすれば、かなり可愛らしい組み合わせで兵士のイメージとはかけ離れている。だが、桃は不老長寿を表す神聖な果物でもあったので、命をかけて都を守護する衛士だからこそ、その身を案じた「おまじない」としての意味合いも込められていたのかもしれない。

 一方、現代人が桃色やピンクから連想することの一つに「恋」があるのではないだろうか? 『万葉集』では桃が恋の成就の象徴として詠われていることもあり、その時代から現代人と変わらない桃色のイメージもあったようである。

 また『源氏物語』の登場人物・柏木が、光源氏の正妻・女三宮を見初める蹴鞠の場面でも、「恋」を象徴する桃色系の装束を着た女三宮が登場するという。

 ちなみに『源氏物語』には多くの場面で紫系統の色が登場する。本書の「紫」の章でも『源氏物語』の主要な登場人物が着ていた「紫の薄様(うすよう)」や「紫の匂」などの襲の色目が紹介されている。

▲『源氏物語』を彩った美しい紫

 これらの色彩を通して、『源氏物語』の世界がより鮮明に想像できるのではないだろうか?

 こうやって日本の色のルーツを知ると、日本史を違う視点で見ることができ、その「意味深さ」に驚く読者も多いはずだ。今よりも「色」が貴重だったからこそ、現代では考えられないほど「色」に込められた「想い」は深かったのである。

文=雨野裾