BiSHの音楽はどうして心を揺さぶる? モモコグミカンパニーの自伝的エッセイに答えがあった!

エンタメ

2018/4/22

『目を合わせるということ』(シンコーミュージック)

 2017年から今年にかけて、アイドルグループ「BiSH」の勢いが加速している。2015年のデビューから、すでに音楽ファンからの評価は高かった。『ミュージックステーション』出演、グループ史上最長ツアーの成功などを経て、横浜アリーナでのワンマン・コンサートが決定。今、もっとも急成長しているアイドルグループだといえるだろう。

 それでも、メンバーのモモコグミカンパニー(以下、モモコ)は「アイドル」という呼ばれ方に違和感を抱いているという。モモコの初著作となった『目を合わせるということ』(シンコーミュージック)は、彼女の生い立ちからBiSHの一員としてデビューし、現在にいたるまでの道のりが記された自伝的エッセイだ。モモコのあまりにも率直で自然体な文章は確かに、「偶像(アイドル)」という単語からはかけ離れている。BiSHのファンだけでなく、彼女たちに興味を持ち始めた人にも読んでほしい一冊だ。

 BiSHが他のアイドルグループと一線を画している点を挙げるなら、彼女たちには「言葉」があることだろう。ライブのMCやメディアで発せられる彼女たちの言葉はあまりにも自由だ。ときには下ネタやぶっちゃけトークを挟みながらも、飾らない本音がいつも飛び交っている。そして、BiSHは多くの楽曲でメンバー自らが歌詞を書き、自分たちのリアルな感情を伝えている。中でも、文章力に長けて歌詞の採用率が高いメンバーがモモコだ。

 歌詞と同じく、本書でもモモコの表現は独特だ。周囲には典型的な明るい女の子に映るのに、心の中は葛藤に満ちている。奔放なようで意外なほど他人を細かく観察している。たとえば、デビュー前は女子大生だったモモコが、BiSHのオーディションを受けた理由はこう書かれている。

オーディション現場に行けば、学校やバイト先にはなかなかいないアイドルになりたい女の子に会える。

「普通でない自分」に憧れながらも、普通の毎日を送るしかなかったモモコの気持ちが伝わってくる。とはいえ、モモコがオーディションに申し込んだ目的は、あくまでアイドルになりたい女の子たちの観察であって本当に自分が受かるとは思っていなかったという。BiSHのオリジナルメンバーは全員が何らかのパフォーマンス経験者。歌もダンスも専門的に教わったことがないモモコは、メンバーとの差を痛感し、落ち込む。

アイドルがよくライブが楽しいー!って言ってるのを聞くけど、わたしの場合は少しも楽しくなかった。

 そう、本書にはアイドルの自伝にありがちな、活動やメンバーとの絆を美化するような描写が一切ない。メンバーから「嫌いだった」と言われた過去や、初期メンバーが脱退して雰囲気が悪くなった時期についても包み隠さず綴っていく。号泣するメンバーが現れた楽屋での話し合いなどは、「そこまで明かして大丈夫なのか」と驚いてしまう内容だ。もちろん、やがてモモコにプロ意識が芽生え、BiSHが結束していった歴史があったからこそ書けるエピソード群ではある。それでも、少なからず読者に衝撃を与えるのは間違いない。

 芸能界で上を目指すなら、こうした正直さは邪魔になる瞬間もあるだろう。しかし、モモコには嘘の言葉を書きたくないという信念がある。

わたしはステージに立つ人間だけど、他の人間となんら変わりない。人前に立つようになったからこそ本当のことを言いたい。嘘のない言葉しか人に伝わらないと思うから。

 本書を人気グループの裏側を描いた本として楽しむのも悪くない。しかし、モモコの不器用なほど実直な言葉は、人の顔色を窺って生きているすべての人に響くはずだ。他人に合わせるよりも、しっかり大切な人と目を合わせて生きていく方が難しい。モモコやBiSHのパフォーマンスが心を揺さぶるのは、彼女たちが「こうあるべき」という良識を塗り替えていく存在だからだ。BiSHはアイドルグループではなく、「楽器を持たないパンクバンド」との肩書きが相応しい所以はここにある。

文=石塚就一