『経済学は役に立ちますか?』その真相を竹中平蔵と経済学のスペシャリストから学ぶ

ビジネス

公開日:2018/4/19

『経済学は役に立ちますか?』(竹中平蔵・大竹文雄/東京書籍)

 今も昔も経済学に関するさまざまな書籍が出版されてきた。そのいくつかは実際に手に取り読んだことがある人もいるだろうが、果たしてその内容がどれだけ役に立つのか疑問を持つ人が多いはず。かくいう私もそうで、経済学は経済界や政界のお偉い方だけが学んでいればいいものと思っていた。

『経済学は役に立ちますか?』(竹中平蔵・大竹文雄/東京書籍)は、そんな疑問にストレートに答える1冊だ。経済財政政策担当大臣・金融担当大臣など、政界の要職を歴任した竹中平蔵さんと、大阪大学教授で経済学のスペシャリストの大竹文雄さんが対談形式で経済学をテーマに日本のあれこれを語っている。

■「経済学は役に立つの?」その答えはズバリ――

 いきなりだが、もうズバリ答えを言いたい。経済学はどう役に立つか。世の中で起きていることが把握できるようになり、それについて自分の意見でエキサイティングに議論できるようになるのだ。

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 たとえば長い間日本を悩ませ続けるデフレ問題。そもそもデフレ(デフレーション)とは、物価の上昇率がマイナス、ゼロ、または1%程度の状態が続くことを指す。物価が下がると私たちの収入も下がるので、生活水準は変わらなくても労働意欲が下がってしまう。そして借金をしている人にも影響が出る。デフレが起きて物価が下がると1円自体の価値は相対的に高くなるので、借金の額は変わらなくても実質的な価値が上がっていく。こうなると企業が銀行からお金を借りて投資しなくなるのだ。これでは経済成長が止まってしまう。

 デフレの仕組みが理解できると、安倍内閣がやろうとしていることも何となく分かり始める。政府は2%の物価上昇を掲げている。つまりインフレを起こして、私たちの収入を増やして労働意欲を上げ、企業には投資をさせたいのだ。では、インフレを起こすためにどんな政策を行うか。それが「マイナス金利」と「量的緩和」だ。

 ちなみに量的緩和とは、日本銀行が金融市場に大量に資金供給を行う政策のこと。民間金融機関が使えるお金が増えるので、企業の融資の依頼を引き受けやすくなる。本書では経済学の専門用語がそのページ内で逐一解説されているので、私のような経済素人でも四苦八苦することなく読み進められるのがうれしい。

 こういった言葉は日々ニュースで飛び交っているが、聞いたことがあるだけでなぜ行うのか理由や目的を説明できる人は少ない。経済学を学べば、なぜマイナス金利や量的緩和を行うのかが理解できるし、その政策について正しく意見ができる。つまりこれからの日本経済の動向がうっすら予測できて、その政策の善し悪しを自分の頭で判断できるのだ。

■私たちが働く環境も、経済学を学べば変わってくる?

 また本書は、私たちの生活に密着した問題についても分かりやすく解説している。最近叫ばれている「働き方改革」も、本書を読めばなぜ一向に進まないのか、要点を押さえることができる。

 働き方改革で最も関心が高いのが長時間労働だ。単純に労働時間を規制すれば解決しそうだが、そんなに簡単ではない。賃金が低くて残業しないと生活していくだけの稼ぎを手に入れられない人もいるし、生活に困っていなくても当然もっとたくさん働きたいという人もいる。なかにはブラック企業に洗脳されているパターンもあるかもしれない。ならば自分に合った職場環境を求めて転職できればいいのだが、日本はいまだに年功序列と終身雇用制度が根強く残っているため、転職した方が不利になる場面もある。

 根本的な話をすると、日本の場合、企業のスタートアップ(開業)とクロージング(廃業)が極めて少ないという問題がある。つまり労働市場の新陳代謝が低いのだ。これは生産性の低い企業が、つまり労働者にとって働きたくない職場環境を抱える企業が、ゾンビのように生き残っていることでもある。問題を連発する大企業が数々あることを思い出せば誰もがうなずくだろう。

「ならば新陳代謝を高める雇用システムを作ればいいじゃないか!」という声が飛んできそうだが、そうなると大企業の経営陣が「NO!」と言い出すだろう。「うちは今までこれでうまく回ってきたから」というわけだ。本書ではこの他にもいくつか問題点を述べており、働き方改革の難しさを痛感してしまう。

 経済学を学べば、今の日本の状況がまるわかりになる。経済は常に政治とセットなので、日本国民全員が経済学を学べば、政治が変わるかもしれないという期待も湧く。日本を変えることができるのだ。これは過言じゃない。まさしく数年以内に実現できる、日本国民が日本を変える方法の1つだ。経済学は、私たちの人生と密接に関係する役に立つ学問だ。

文=いのうえゆきひろ