「あの鳥は何を歌ってる?」 鳥たちの愛憎劇を覗いてみれば――

スポーツ・科学

2018/4/21

『歌う鳥のキモチ』(石塚 徹/山と溪谷社)

 もう、ずいぶん昔のことだ。好きなコが参加していたカラオケで、自分の思いを表すような詞の曲を選んで歌ったことがある。もちろん、そんなに都合よく思いが伝わるなんてことはなく、僕が歌っている間ずっと彼女は周りの友人たちと話してばかりで、耳を傾けてくれる気配すらなかった……。
 思いを込めて歌をうたうのは、そして、残念ながらそれが届かないことも多いのは、人間だけではないらしい。野鳥の鳴き声が表現する世界を紹介した本書『歌う鳥のキモチ』(石塚 徹/山と溪谷社)を読んで、ほろ苦い記憶がよみがえるとともに、鳥たちに対する妙な親近感をおぼえてしまった。

■美しい鳥のさえずりの裏にある「本音」

 季節は春。森でも街でも、鳥たちは普段とは異なるテンションで、高らかにさえずっている。よく「小鳥のさえずり」というが、実は「さえずり」とは鳥たちが出す声の中でも、繁殖にかかわる比較的複雑な歌声(song)を指すもので、オスだけが出す種類が多い(それに対して、オスもメスもふだんから出している単純な声は「地鳴き」(call)と呼ばれる)。「さえずり」には、異性の誘引となわばり宣言の2つの役割があるそうで、そこに込められた秘密について、本書は豊富な観察事例をもとにぐいぐいと迫っていく。

 たとえば南の国から春日本へ渡ってきて、森で美しく鳴く「クロツグミ」という鳥は、歌のレパートリーが多いオスほどメスにモテるという。梢で朗々とさえずる青い鳥「オオルリ」のオスの小声でささやくような歌は、「あなただけに♪」という意味があるらしい。鳥のオスたちは皆、あの手この手でラブソングを歌っているのだ(中には、フラれ続けるものもいるらしい)。そのいじらしい姿を知ると、少し泣けてくる。

 と、これだとオスたちの純情というだけで綺麗にまとまってしまいそうだが、本書はそこで終わらない。歌に込められた鳥たちの私生活、さらにはその「キモチ」の内側へと斬り込み、“文春砲”ばりにドロドロとした本性を暴いていくのだ。
 鳥の歌には、自分は何鳥であるという「種」の情報や、オスであるという「性」の情報の他に、はげしく歌うことで自分は独身である、あるいはゆっくり歌うことで既婚者であるという情報も秘められているという。そのルールをちゃっかり利用して、昼は巣の近くで妻のために歌う一方で、夜明け前に遠出して独身をアピールする歌をうたうオスがいるそうだ。そして浮気に成功して2つの森を行き来して器用な二重生活を送るオスがいると思えば、歌上手なオスについてまわり、したたかにおこぼれでメスを狙うオスもいるという。

 もちろん女性、いや、メスだって黙ってはいない。夜更けになわばりを離れ、より歌のうまいオスと浮気して戻ってくる現場が研究者に観察されたこともあれば、オスを独占しようと、メス同士で取っ組み合いのケンカをすることだってあるというから驚きだ。
 歌声をもとに浮かび上がってくる鳥たちの暮らしはかなり生々しいもので、なんだか他人の私生活を覗き見しているような、ちょっとワイドショー的な興味を引く。

■すぐそこにある鳥たちの生々しいドラマ

 オスメスを男女に置き変えれば、そのまま人間に当てはまるケースもあるだろう。浮かび上がってくる鳥の社会は、人間とそう変わりなくみえる。そんな鳥たちの私生活をちょっと覗かせてもらうには、山や森へ出かけるのもいいが、ハードルが高いな、という人は、日常的な空間でも耳をすませてみよう。人の暮らしのすぐそば、街の公園やビルの上でも、さまざまなラブストーリーが繰り広げられていることに気づくはずだ。なお、本書の読者には、夜明けの森に響く鳥たちのコーラスなどを実際に視聴できる動画サイトも用意されている。

「あいつ、がんばって歌ってるな。いい奥さん見つかるといいな」とか「おいおい、おまえ浮気しようとしてないか?」とか想像するのも楽しいだろう。自分を重ね合わせて、応援したくなることだってあるかもしれない。

 でも、いくら感情移入しても、「あいつが浮気に成功したのだから自分も」とはならないように。鳥たちは、厳しい野生の世界で自らの遺伝子を残すためにそうした行動をしているのだから。「いや、厳しい世界で遺伝子を残すのは人間も同じだ」という野性味あふれる方は……、まあ、その先はお任せしたい。

文=齋藤詠月