海外版猫ピッチャー!? 厚切りジェイソンが初翻訳した「猫あるある本」

マンガ

更新日:2018/5/7

『猫CEO』(トム・ファンダー:著、厚切りジェイソン:訳/飛鳥新社)

 プロ野球史上初の猫投手として登板した主人公のミー太郎がマウンド上で居眠りしたり、バットで爪を研いだりする『猫ピッチャー』(そにし けんじ/中央公論新社)は、猫の飼い主が共感できるポイントがいたるところに散りばめられたギャグマンガだ。

 そんな猫ピッチャーと通じるユーモアを感じさせる1冊の本が話題になっている。外国人芸人としても有名な厚切りジェイソンが初めて翻訳にチャレンジした『猫CEO』(トム・ファンダー:著、厚切りジェイソン:訳/飛鳥新社)だ。Facebookで20万いいねを得て書籍化された本書はタイトルの通り、“もしもウチの会社の社長が猫だったら…”をテーマに、猫あるあるなギャグが多数盛り込まれている。

 たとえば、社長がオフィスでコーヒーを飲むというなに気ないワンシーンにも、猫が持つ好奇心が巧みに描かれている。猫CEOはテーブルの上に置かれたコーヒーにじゃれ、マグカップを落としてしまうのだ。こうした光景は猫を飼っていると、実際に目にするものだからこそ、ニヤニヤが止まらなくなる。

advertisement

 さらに、猫CEOはリストラの仕方も斬新だ。人員削減のため、社員の仕事内容を再確認しはじめた猫CEOは肝心の業務内容を聞いても、まったく興味を示さない。彼が気になるのは、目の前の相手が自分になにをしてくれるのかということ。

 そのため、マーケティング責任者が日々の業務として「社長のお食事ボウルの補充をしている」と伝えると、「すばらしい仕事ぶりだ」と返し、リストラの対象外にするのだ。そうしたやりとりをさまざまな社員と繰り返した結果、猫CEOは温かいふとももに座らせてくれたり、トイレの砂を交換してくれたりするという理由から、なかなか社員をリストラできず、有能な会計士を解雇してしまう。

 こうした猫CEOの身勝手でマイペースな姿には、等身大な猫の魅力がたくさん詰め込まれている。猫は自分の欲求に忠実で、人に媚びない動物だ。猫が大切にしているのは、自分に居心地のいい空間をどうやって得るかということだ。

 しかし、そんなわがままも、無邪気な姿を見ていると微笑ましく感じられてしまう。それは本書に描かれている、猫CEOにもいえることだ。彼は社長としては役に立たないが、不思議と周りの人から温かく見守られている。右腕となってくれている部下のテッドも「人生、最悪だよ」と言いながら、結局は猫CEOに尽くしてしまう。こうした点は、猫ピッチャーと近いものがある。どちらのキャラクターも本物の猫同様に、「仕方ないか」で許されてしまう愛くるしさを持っているのだ。

 また、本書はあるあるネタだけでなく、猫のしつけ方も教えてくれる。本書内で猫CEOは反抗的な社員のマイケルにコミカルな罰を与える。「最後の手段を使うときがきた」と口にした猫CEOが行ったのは、霧吹きでマイケルの顔に水をかけるという罰だった。一見この罰はユニークなだけにも思えるが、猫にいけないことを教えたいとき、実際に使えるテクニックでもある。猫CEOが見せるしつけ方や猫ならではの習性は、猫をおうちに迎えたいと思っている方にとって、役立つ情報にもなるだろう。

 ビジネスをモチーフにしたコミックは、難しそうだと思われることも多い。しかし、ゆるいジョークに癒される本書なら、笑いながら読破できるだろう。猫を飼っている方はもちろん、「最近笑顔になれていない」と思う方にもぜひおすすめしたい。

文=古川諭香