東野圭吾の超大作『白夜行』! 被害者の息子と、容疑者の娘の見えない絆のダークストーリー

文芸・カルチャー

2018/5/1

『白夜行』(東野圭吾/集英社)

 これは純愛なのか。はたまた稀代の悪女と哀れな男の物語なのか。東野圭吾氏の『白夜行』(集英社)は読む人によって様々な解釈ができる衝撃ミステリー。綾瀬はるか&山田孝之でドラマ化されたことでも知られるが、心に闇を抱えた男女の姿をおどろおどろしく描いたこの小説はミステリーファン必読の書といえるだろう。

 物語の中心に横たわるのは、1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された殺人事件。疑わしい容疑者は複数挙がったが、決定打はなく、結局事件は迷宮入りしてしまう。事件当時、小学生だった、被害者の息子・桐原亮司と、容疑者の娘・西本雪穂はそれぞれ全く別の道を進んでいく。理知的な美貌を持つ雪穂は華々しい道、暗い眼をした亮司は暗い道…。しかし、2人の周囲には世にも恐ろしい事件が頻発していた。事件の真相を追ううちに見えてくる2人の関係。しかし、そこには確固たる証拠はない。そして、19年の時が経ったとき、2人にはどんな未来が待ち受けているのだろう。

 この作品は文庫本で864ページにも及ぶ超大作。しかし、読者はその長さを感じる暇もないまま、いつのまにか不気味な物語世界に引きずり込まれてしまう。

 この物語は決して明るくない。むしろ、終始、明かりのない夜道を歩かされているようなダークな雰囲気が漂っている。主人公である雪穂と亮司の心境は決して本人の口から語られず、実際には何があったかわからない。そこには周囲の人たちの憶測だけがある。しかし、どうしてだろう、その不気味さにどうしても惹かれてしまうのだ。真実を知りたいという好奇心がそうさせるのか。自分の中の仄暗い部分が物語と呼応するのか。誰をも信じることのない冷酷な男女の姿は怪しい光を放つ。

「人によっては、太陽がいっぱいの中を生き続けられる人がいる。ずっと真っ暗な深夜を生きていかなきゃならない人もいる。あたしはね、太陽の下を生きたことなんかないの。あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった。あたしはその光によって、夜を昼と思って生きてくることができたの」

 高度経済成長、オイルショック、パソコン産業と新しい時代の幕開け、バブルとその崩壊…。昭和から平成までめまぐるしく時代が変化するなかで、雪穂と亮司、それぞれの物語が関係者の視点で語られる。2人が対面する場面は描かれないのに、どうしてその2人から強は絆を感じるのだろう。誰にも邪魔できない、誰にも理解し得ない領域に2人がいるように思わせるその筆力に圧倒される。

 上品だが、隙のない身のこなし。理知的な顔だち。雪穂のアーモンド型の美しい瞳に射止められれば、私たちはたちまち身動きが取れなくなる。そんな彼女と、感情のないがらんどうの目をした亮司との間にあるものを愛と呼んで良いのか。

 心を失った人間たちの悲劇が強く胸に突き刺さる。ひとときも目が離せないダークな絆の物語。こんなハラハラさせられるノンストップミステリーを読まない手はない。

文=アサトーミナミ

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