あなたはどれだけ知ってる!? 80年代に花開いた「OVA(オリジナルアニメビデオ)」の世界

アニメ

公開日:2018/4/23

『オリジナルビデオアニメ(OVA)80’S:テープがヘッドに絡む前に』(MOBSPROOF編集部/出版ワークス)

 現在、日本のアニメーションは国内外から好評を得て、地上波だけでも新作アニメが週に40本以上テレビ放送されている。しかし当然のことながら、これだけの数をひとりの人間がすべて視聴するのはほぼ不可能。ゆえに視聴作品は厳選され、多くのアニメが人の目に留まらないまま「終劇」を迎えてしまう。中にはかなりの良作も存在するだけに、実にもったいないことだと思うのだ。そういえば、これと似たような状況を以前も感じた記憶がある。それはビデオ全盛期の1980年代に誕生した「OVA」(オリジナルビデオアニメ)の時代である。この頃も多くのアニメ作品が制作され、その大半が手に取られることのないまま忘れ去られた。『オリジナルビデオアニメ(OVA)80’S:テープがヘッドに絡む前に』(MOBSPROOF編集部/出版ワークス)は、OVA黎明期に発売された260本以上のタイトルを紹介しており、数々のOVAを懐かしく振り返ることができる。

 まず「OVA」とはどういうものか。それは「ビデオでしか観ることのできないアニメ」──つまり「ビデオオリジナルのアニメ」ということで「OVA」と呼ばれる。テレビアニメに比べて規制が少なく自由度が高かったため、多くのクリエイターが作品作りに携わった。製作期間もテレビより比較的余裕があったため、クオリティの高いものが生み出されて視聴者を喜ばせたのである。

 ではOVAの「始まり」となるアニメは何か。それは1983年に発売された『ダロス』というアニメだ。この作品は『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』などのヒット作を手がけた押井守氏が監督。高クオリティの映像と硬派なSFストーリーが観る者を魅了した。ちなみに本書によればこの作品は「元々テレビアニメ企画だった」という。そのシリーズ序盤を再編集する形で作られたのが本作であり、全3部からなる物語には謎の部分も多い。しかも「第1部が地味な内容」という理由で第2部が先行して販売されるという驚きのスケジュールが組まれたのである。それでも『ダロス』は好評を博し、OVAの始祖として人々に記憶されることとなった。もし本作が不評であれば、以後の発展はなかったかもしれない。

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 その後、OVAは多くの人々に支持され、作品数を増やしていく。本書巻頭のカラーページに紹介されている『メガゾーン23』や『戦え!! イクサー1』といった高品質の名作が次々と生み出されていくわけだが、当然ながら光があれば陰もある。評価され脚光を浴びる作品があれば、話題に上ることもなく忘れられる作品も存在するのだ。例えば『機動戦士ガンダムZZ』のキャラクターデザインなどで知られる北爪宏幸氏が監督などを務めた『レリック・アーマー レガシアム』は高品質のロボットアニメだったが、前後編の予定が後編は発売されず、評価としてはマイナーの域を出ない扱いとなってしまった。それでも人の目に触れればまだマシなほうで、ツワモノのアニメオタクといえど本書収録タイトルの半分程度でも観ている者は限られるだろうし、数多の作品が人知れず消えていったのである。

 黎明期からOVAを楽しんできた人であれば、本書を懐かしさと共に楽しめるだろう。また大張正己氏など、時代を支えたクリエイターたちのインタビューも興味深いが、その中でも「上坂すみれ」の存在が異色だ。彼女は現在人気の女性声優で、80年代のOVAには縁がないように思えるが、実は大の『装甲騎兵ボトムズ』ファンだという。本作はテレビシリーズのほかOVAも80年代に数多く作られており、上坂はその魅力を熱く語っているのだ。彼女も私同様「最低の野郎ども」の仲間であることを知り、ちょっと嬉しい。こうして古きよきOVAの名作が、新たな世代に受け継がれていくことを、切に望むのである。

文=木谷誠