日本最初の仏像切手は…? マニアにはたまらない! 切手で学ぶ仏像のひみつ

暮らし

2018/4/30

『ARTBOX 切手で仏像』(山本勉/講談社)

 マニアック……! だが、好きな人には「待ってました!」の一冊ではないだろうか。『ARTBOX 切手で仏像』(山本勉/講談社)は、切手のモチーフとなった仏像の解説と、その切手がどういった経緯で、どのような印刷方法で作られたのかなど、その切手の成立小話が書かれている「仏像好き」と「切手好き」、両者を満足させるオールカラーの画集だ。

 解説されている全切手の写真が載っているので、ただ眺めているだけでも面白い。解説を読めば仏像の理解が深まるし、切手のコラムを読めば、また違った視点を持つこともできる。楽しみ方がたくさんある一冊だ。

 さて、本書の中身をご紹介する前に、まずはちょっとした雑学から。

 仏の種類には「如来(にょらい)」「菩薩(ぼさつ)」「明王(みょうおう)」「天」がある。

「如来」は悟りを開いた者のこと。「菩薩」は将来悟りを開いて如来になるべく修行している者のことで、王子時代の釈迦をモデルにしているため、如来と比べると豪華な衣装をまとっている。

「明王」は密教から生まれた、仏教を信じない人を、怖がらせてでも信じさせるために変身した如来や菩薩のこと。そのため怒りの表情をした像が多い。「天」は仏教以前にインドや他の地域で信仰されていた、たくさんの神々が仏教に取り入れられた後の姿。そのため男女の区別があるなど、種類も多様性がある。

 本書はこの区分ごとに切手を紹介しているので、4つの違いをそれぞれの章の最初にある解説で確認しておくと、さらに理解が深まるのではないだろうか。


 1939年に1円普通切手として発行された鎌倉の大仏の切手。1252年に鋳造が始まったという巨大な阿弥陀如来像である。

 鎌倉大仏の姿は、当時の一般的な日本の仏像とはかなり異なる中国風のもの。この大仏は、鎌倉における中国風の仏像の初期の作例として、仏像史の上でも貴重なものだという。

 また、本切手は日本最初の仏像切手。当初、伊藤若冲の鶏が候補として挙がっていたが、図案会議で美術史家の一人が「グロテスク……」と意見したことから却下となり、鎌倉の大仏が採用になったとか。


 1968年に発行された普賢菩薩像の切手。12世紀(平安時代)に描かれた絹本着色の仏画である。平安時代には貴族社会を中心に「法華経」信仰が隆盛した。これを信仰する者には、六本の牙を持つ白い象に乗った普賢菩薩が現れ、守ってくれるという。そのため、この時代には多くの普賢菩薩の仏画や仏像が製作された。

 本画像は「繊細華麗な装飾性」があり、「耽美的な傾向」を持っていた、この時代の仏教美術の特色をよく示している作品だという。

 実際の原画では白象に乗っているそうだが、切手にする際には菩薩の部分だけクローズアップしている。どの部分を「切り出すか」は、切手デザイナーの腕の見せどころでもある。


 1968年に発行された興福寺阿修羅像の切手。734年(奈良時代)に作られたこの像には、見覚えのある方も多いのではないだろうか。阿修羅像は光明皇后が亡くなった母親の菩提を弔うために造った西金堂(さいこんどう)の堂内にある、たくさんの仏像の中の一つ。

 本切手の特徴は「トリミング」にあるという。トリミングとは、強調したい部分以外を取り除き、対象物の注目すべき点を明確に示すデザイン手法のこと。小さな切手の中で、細長い体や横に広がる腕をバランスよくおさめている。像の向きを考慮した絶妙なトリミングに、阿修羅像を際立たせる白地の背景は、この切手の印象を強めているという。

 ちなみに本書は「仏像はそこそこ」「切手はまぁまぁ」な私でも分かりやすく、面白く読めたので、「ちょっと興味がある」くらいの人から楽しめる内容になっているはずだ。本棚にずっと置いておきたくなるような、デザイン性と内容の濃さを持った一冊ではないだろうか。

文=雨野裾