今月のプラチナ本 2012年4月号『できることをしよう。 ぼくらが震災後に考えたこと』 糸井重里、ほぼ日刊イトイ新聞

今月のプラチナ本

2012/3/6

できることをしよう。―ぼくらが震災後に考えたこと

ハード : 発売元 : 新潮社
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:糸井重里 価格:1,512円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『できることをしよう。 ぼくらが震災後に考えたこと』

●あらすじ●

「ほぼ日刊イトイ新聞」で掲載され、共感を呼んだ東日本大震災関連のコンテンツが書籍化。糸井重里との対談による「クロネコヤマトのDNA。」「西條剛央さんの、すんごいアイディア。」「東北の仕事論。」「その話し合いをしておこう。」や、ほぼ日刊イトイ新聞によるレポートコンテンツ「山元町と手をつなぐ。」「福島の特別な夏。」を収録。また、「ほぼ日」では掲載されていない糸井重里のロングインタビュー「ぼくと『ほぼ日』の『できること』。」も追加収録されている。本書の印税は全額、東日本大震災復興支援活動に寄付される。

いとい・しげさと●1948年群馬県生まれ。75年TCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞を受賞。「不思議、大好き。」「おいしい生活。」などのコピーで一世を風靡。98年に「ほぼ日刊イトイ新聞」(www.1101.com)を開設。2011年11月1日、「ほぼ日刊イトイ新聞」はじめての支社となる「気仙沼のほぼ日」(www.1101.com/pl/kesennuma/)を宮城県気仙沼市に開設。2年間という期間を区切り、「できることを探す」ことから活動をスタートさせた。

新潮社 1470円
写真=首藤幹夫 

編集部寸評

ありがとうとさよならに代えて

今回がぼくにとって最後のプラチナ本紹介。それがこの本でよかった。ダ・ヴィンチに携わって18年半。会いたい人にたくさん会って、やりたい特集をいくつもやらせてもらった。そんなありがとうとさよならに代えて、最後に紹介できる本がこの本でほんとうによかった。――あの3月11日、ただオロオロしているぼくに全力で道筋を示してくれたのが「ほぼ日」だった。糸井さんはやっぱりスナフキンだったし、ぼくはどうしようもなくムーミンだった。ムーミン谷もイーハトーブも天災に見舞われたけど決してくじけなかった。ヤンソンがムーミン谷をつくり、賢治がイーハトーブをつくったように、糸井さんは「ほぼ日」をつくったんだと思う。居場所であり指針であり避難所でもあるもの。ダ・ヴィンチもそうなれたらいいな。どうか、これからも。

横里 隆 本誌ご隠居兼編集人。今号をもってダ・ヴィンチを卒業します。すべての本と作家と出版社と書店と、何より読者の皆様に感謝!

これを知恵と呼ぶのだと思う

震災後、何かを考えようとしてもすぐに停止してしまう私の脳みそ。怖いし、むずかしいし、忙しいし……言い訳しか思いつかない頭をガタガタ揺さぶって、叩き起こしてくれる言葉がこの本には詰まっている。とくに強力なのが、ラストに置かれた糸井重里さんロングインタビュー。この言葉は覚えておきたい、そう思って立てた付箋は40本を超えた。「茫然とできるっていうことは、自分がやらなくても、代わりに誰かが何かをやってくれると思ってるからなんですよね」。自分の甘えに気づき、そして“できること”を真剣に考えるためのヒントがずらりと並んでいる。それは震災後に必要な言葉であり、かつ、震災以外のあらゆる局面―たとえば仕事や家庭-においても当てはまる言葉だ。こういうものを、知恵と呼ぶのだと思う。

関口靖彦聞き手である新潮社編集チームが糸井さんに投げかける質問も素晴らしく、その仕事ぶりに感銘を受けました

「できること」をしたくなる本

震災直後から、糸井さんのツイートや「ほぼ日」のサイトをよく見ていたので、ロングインタビュー〈ぼくと「ほぼ日」の「できること」。〉はすごく面白かった。短いツイートや簡潔なメッセージの背景にあった気持ちや葛藤や経緯を、さまざまなエピソードとともに種明かししてくれていて、メディアに携わる者として非常に納得・共感した。弊誌でも昨年8月号で震災特集「無力感を祈りに変えて」を掲載したが、その特集で「何を伝えるか」を考え話し合ったとき、大事にしたかったのは〈気持ち〉のことだった。本好きの人や本に関わる人が元気になる実話をたくさん紹介して、これだったら自分もやりたいと思える何かを見つけてほしいと思ったのだ。震災から1年のいま、この本を読めて本当によかった。また何かが見つかった。

稲子美砂ずっとやりたかった「京都と本」の大特集が次号で実現。あれもこれも入れたいで、かなりのボリュームになりそう

「自己表現」の気持ち悪さ

この震災ではツイッターやフェイスブックなど、あらゆる情報が飛び交い、それによって助かった人、生き延びた人がいることは知っている。でも、震災を機に善人パワーを全開にしてツイッターでボランティア精神を謳う友人に辟易した自分もいた。その正体はこの本で分かった。糸井さんはそれを「自己表現」と名づけていた。「ぼくらは『たいしたことないもの』です」。それをしている自分は誰?主役は誰?と思いながら静かに参加することの重要性を教えてくれる。「自己表現になってはダメだ」と。困ったときは糸井さんがいつも言葉を与えてくれる。そして考え方も教えてくれる。「大人が真剣に何かをやろうとして積み木を積むときには順序があるんですよ。それは、頭から血が出るほど考えるとわかるんです」と。さすが糸井さん!

岸本亜紀本誌副編集長。初夏に向けて怪談本の企画を続々準備中。久々にミステリ特集を担当。絶対外さない定番ばかり選んでいます

日本にこんな会社が増えたなら

私事で恐縮だが、私の父はヤマトの社員として、新卒から定年まで40年以上勤めた。真面目でずるが嫌いな、学者のような性格のあの父が、派閥争い的なものに翻弄されずにいられたことも、揺るぎない愛社精神を持っていたことも、不思議だった。だが「クロネコヤマトのDNA。」を読んで、父はヤマトでその思想を培ったのだと思った。震災後の日本で求められる思想と実効。本書には、そんなヒントがたくさん詰まってる。

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これからが正念場、常に視線を

暗い状況下で少しでも明るい方へ顔を向ける。いまこそ当然のように思えるが、実際は勇気のある行為だ。ツイッターなどのSNSを通し、個人の言葉がダイレクトに聞こえてくる中、「ほぼ日」は震災直後から危険を顧みずに推進してきた。「いいことをしてるときは、悪いことをしてるぐらいに思っていてちょうどいいんだ」という吉本隆明氏の言葉が響いた。私も自戒をこめて忘れないために、本書をリツイートする思いだ。

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「忘れない」ことも。

震災直後、様々な情報が流れ、不安に煽られていた頃、糸井さんのツイートが飛び込んできた。私たちの前ですくっと立ち上がり先陣をきってくれたように感じたが、こんな想いがあったとは。本書では「ほぼ日」が掲げたメッセージ「ぼくらは『たいしたことないもの』です」という言葉にも触れ、「自己表現にしない」ことについても語られている。自分にできること、その視線の先を見つめ、もう一度考えることからはじめたい。

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被災地支援の応援歌

がれきの中をひた走るクール宅急便のトラック。「クロネコヤマトのDNA。」で明かされた現地社員の“できることをしよう。”に涙があふれた。震災直後の混乱した中、話しあったわけでもないのに、同時に数カ所で救援物資の配送をはじめた社員たち。その後、権限違反のこの行為を会社は全力でサポートしはじめる。危機的状況で生きた企業理念は私にとっても希望になった。被災地支援をこれからも続けるために。

鎌野静華『TTRE YEAR BOOK』(本誌P13)の編集お手伝いを。オールカラー!上製本!表紙に箔押し〜っ! 豪華すぎて怖い

まだまだこれから、そのために

本誌1月号では「できるよ、きっと。それを伝えたくて本にしたところがあるんです」、震災前に取材した記事では「僕は、みんなに〈できるんだよ〉ってことを言いたいんですよ、いつも」。糸井さんはいつも、そうなのだ。声高に何か主張する本じゃない。でも、普通の人の物語が胸に迫る。そしてあえて言い切るが、この本は楽しい。気持ちを温めてくれる。本書自体もこれからのためのアイディアの一つ。大いにそれに乗ろう。

岩橋真実私にとってのふるさとは母の実家があり度々訪れた福島。「福島の特別な夏。」のラスト、ほんとうにそうだと強く思います

震災前の姿に思いを馳せる

想像を絶するあの時、大切な「たれ」を持ち出した従業員がいたー斉吉商店のエピソードに胸が詰まった。地震が起きる1秒前まで存在していた、日々の営みと穏やかな町の姿。いまや震災前と変わらない日常のなかにいて、そんな当たり前のことを想像するどころか、あるときから思考が止まってしまっていた。被災地から発信される、もう一歩発展させた姿にしようという心意気をよすがに「できること」を考えてみたい。

千葉美如この原稿を書きながら、斉吉商店さんの「金のさんま」を注文。守り抜かれたたれの味、かみしめていただきます

忘れられない夏の記憶

福島の高校球児たちのひと夏を描いた「福島の特別な夏。」が素晴らしい。新聞や専門誌では描かれない、筆者と球児の駆け引きがじつに生っぽい。文章にそえられた写真もいい。選手たちの息遣いが伝わってきてドキドキする。『おおきく振りかぶって』が好きな人には絶対に響くと思う。高校野球が好きでたまらない筆者が、好きなものを通じて被災地のことを考えた、球児にとっても筆者にとっても忘れられない夏の記録だ。

川戸崇央高校野球で言えば被災地から4校が出場する春の選抜。遂に東北に優勝旗が渡るのか!? ファンならずとも要チェック

考えることを教えてくれた

中学生のとき、阪神大震災を経験した。当時、私は安全な東京のTVの向こう側にいる人たちが発する“頑張れ”に「何も知らないくせに」と怒りを覚えていた。だから今回もツイッターでその言葉を目にしては、抵抗を感じていた。本書では押し付けがましくなく“普通の人ができること”の事例を客観的に教えてくれる。神戸の時も、私の目にしていないところで沢山の助けの手があったはずなんだ。きっと私にもできることがある。

村井有紀子次号京都特集を担当。ライターさんと話す度、関西弁に戻ってしまい混乱の毎日……

後ろめたさを勇気に

震災後から今まで後ろめたい気持ちに苛まれていた。結局ボランティアには行けなかったから。慌ただしく過ごすうちに早1年。東北の話を聞くとなんとなく肩身が狭い。でもこの本はそんな私を責めない。むしろ、糸井さんと対談者の目は「日常」の仕事や頑張りへ注がれる。一つひとつの「できること」の積み重ねが、非常時の助けや復興へとつながることを各エピソードは示唆してくれた。慌てず前に進む勇気をくれる本だ。

亀田早希沢木まひろさんの新刊『恋より或いは美しいもの』が発売中です。磯谷友紀さんの表紙イラストにもご注目ください

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