「定時に帰るだけで“やる気がない”って、なんで?」社畜になるな! 新時代のお仕事小説

文芸・カルチャー

更新日:2018/5/14

『わたし、定時で帰ります。』(朱野帰子/新潮社)

「働き方改革」ということばをよく耳にする。労働力不足、長時間労働、正規・非正規社員の格差…こうした問題が解決されなければ、日本の未来は、残念ながら決して明るくない。

 政府は、「一億総活躍社会」と銘打ち、誰もが職場、家庭そして地域で活躍できる社会を目指すというが、もはや日本人に染みついてしまっている…例えば残業や、上司より早く帰れないという風潮を変えていくのは思いのほか難しい。「改革」なんて生ぬるい意識ではなく「革命」をおこすくらいのドラスティックな勢いがないと進まないのではないだろうか。

『わたし、定時で帰ります。』(朱野帰子/新潮社)は、定時終業をモットーにした女子が主人公の小説だ。彼女の周りには、どんなに体調が悪くても出社する“皆勤賞”女や、会社に“住んでいる”ダラダラ残業男、やる気のない新人など、思わず自分の会社の誰かを思い浮かべてしまうリアルな設定だ。

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■仕事を止められない! ハイな状態に陥っていませんか?

 主人公の東山結衣は、何があっても定時で仕事を切り上げ、近所の中華料理屋でビールを飲むのが日課というアラサー女子。仕事の生産性の高さは、社内で折り紙付きだ。ライバル会社で働く男性との結婚が決まっている。

会社のために自分があるんじゃない、自分のために会社があるんです。

 結衣はこの社長の言葉が好きだった。しかし、彼女がリーダーを務めるプロジェクトでは、ことごとく問題が起き、「残業しない」という彼女のモットーが崩されていく。それどころか、結衣自身が仕事を止めることができない“ハイ”な状態に陥ってしまう。

気付いた時には、脳の奥から霧のようなものが噴射されていた。文字を打ちこみすぎて強ばった指に痛みといっしょに快感が走る。体の芯が痺れはじめる。信じられないくらい気持ちがよかった。これが脳内アドレナリン。足の指がビクビクする。足りない。もっと、欲しいと思った。自分を追いつめれば追いつめるほど、傷つければ傷つけるほど、霧は噴射される。

 結衣がこうなってしまったのは、「仕事ってなんだろう」という疑問に答えを出すべく思い切った行動に出た結果のことだった。結衣は、プロジェクトはどうなるのか? 読者もアドレナリンが噴出して読むのを止められなくなるはずだ。

■働く人たちのリアルなホンネ

 本書のカバーの裏表両面には、「ホワイト退社キャンペーン」のアンケートに寄せられたリアルな声がランダムにデザインされている。

・定時に帰るだけで「やる気がない」って、なんで?
・とにかく家に帰りたい。ただただ家に帰りたい。ひたすら家に帰りたい。
・給料減ってもいいので早く帰りたい。
・でも残業しないと出世しないよね。
・定時という概念をあまり持っていない。
・遠慮を理由に帰れない等はあってはならないが、仕事があるのに定時帰りを強要することもいかがなものかと思う。

 仕事が自己実現の方法のひとつであることに変わりはない。これからの働き方について、本書を手に取って改めて考えてほしい。

文=銀 璃子