あいうえお順で語られる、“食べること”を通して見た日々の話。『たべもの九十九』

暮らし

公開日:2018/5/5

『たべもの九十九』(高山なおみ/平凡社)

「食べる」という行為は、生きることと同じだ。毎日毎日繰り返され、生まれたときから今までずっと続いている。そんな日々の生活の中で当たり前のように繰り返される食事のシチュエーションを思い出してみる。友達との賑やかな食事や家族団欒で気張らない食卓。もしかしたら、気持ちが晴れないまま一人で箸を進めたことだってあったかもしれない。生きれば生きた分だけそのシチュエーションは様々だ。

『たべもの九十九』(高山なおみ/平凡社)では、そんな「たべものを食べること」を通して見える日々が綴られている。

 著者はこれまで多くの料理エッセイ本や、レシピ本を出してきた料理家・高山なおみさん。

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『あ』は『アイスクリーム』、『い』は『いか』のように、あいうえお順に語られたたべものに関する短編エッセイ集となっている本書。日記形式で語られてきた高山さんの他のエッセイとはまた一味違う雰囲気となっている。

 中でも私が好きなのが、『こ』の『コロッケ』のお話。庶民的な食べ物であるコロッケは、それだからこそ、個性がある。コロッケ屋さんのおばちゃんの作る安心感のあるコロッケ、お肉屋さんの冷たい雰囲気のコロッケや、料理上手な義姉の作る手作りのコロッケ。高山さんが出会ってきた人たちとそのコロッケのお話が、食べた時の情景や想いとともに語られる。そして、最後の数行にはそんな様々な出会いをもとに作られた「高山なおみの」コロッケのレシピが誕生するまでの過程が書かれている。

 そんな高山さんの”たべものを食べる日々“が垣間見えるレシピが25の短編の最後にさりげなく綴られている。エッセイの後に読むレシピは、写真はなく文字だけなのにどれもこれもおいしそうだ。読んでいる私たちも、レシピに書かれている工程を頭の中で想像して思わず幸福になってしまう。それは、もしかしたら私たちもエッセイを読むことで高山さんの日々を追体験しているからかもしれない。もちろん想像だけで楽しむのもいいけれど、エッセイに出てきたものを食べてみたい、という人は実際に作ってみてもいいだろう。

 かくいう私も『ま』の『マヨネーズ』で出てきた自家製マヨネーズがあまりにもおいしそうだったため、早速作ってみた。レシピはたったの3工程。思ったより簡単に作れてしまった。

 後で、そのマヨネーズを使ってポテトサラダを作り、パンに挟んで食べてみた。 自分でマヨネーズから作ったポテトサラダは、脂っこさがない爽やかな味で、いつもより少し誇らしい気分で味わった。このほかにも、豆ごはんや和風オムレツ、つくねなどの一品料理のレシピも収録されている。実際に作って食べてみることで、エッセイに書かれている高山さんの日々が少し身近に感じられるように思う。

「食べる」という行為は、私たちの身体を形成していく。それと同じように、ここで紹介されているレシピたちは「日々を生きる」ことが糧となり形成されているものばかりだ。いろんな人と関わって、いろんな場所で食事をして、その時々で感じたこと、それらを全て混ぜ合わせると、高山なおみさん自身となり、これまでたくさん紹介されてきたレシピへと変わっていく。見映えだけではない、たべもののその奥にある物語に焦点が当てられたエッセイは、食べて生きることの豊かさを教えてくれる。

文=ささぶちりりこ