婚活、友情…。女を縛る呪いとは? アラサー女性のリアルを描いた柚木麻子最新作

文芸・カルチャー

2018/5/6

『デートクレンジング』(柚木麻子著/祥伝社)

 就職・結婚・出産――人生にはいくつものステージがある。誰にとっても重要な分岐点だが、特に女性にとっては、ひときわ大きな変化や葛藤をもたらすのではないだろうか。

 ヒリヒリするような筆致でその葛藤を描き出したのが本書『デートクレンジング』(柚木麻子著/祥伝社)だ。女性の描き方に定評のある著者が切り込むのは35歳の女性のリアル。中心となるのは2人の対照的な女性だ。

 佐知子は既婚者。妊活のため仕事を辞め、夫の実家である古い喫茶店を手伝っている。いっぽう実花は独身。人気アイドルグループ“デートクレンジング”の美人マネージャーとして活躍する。

 佐知子にとって実花が特別な存在になったのは学生時代のある日のこと。昔アイドルを目指していたという実花が、あるアイドルのライブに佐知子を誘ったのだ。意外な誘いにとまどう佐知子だったが、ステージを前に熱狂する実花は誰よりもキラキラしていて、佐知子は眼を離せなくなった。「感情に従って何かに心行くまでのめりこむことが、理不尽な世の中に対抗する唯一の手段」――自らの輝きでそう教えてくれた実花は、その日から佐知子の心のアイドルとなったのだ。

 その実花の様子がおかしくなりだしたのは最近のこと。生きがいだったデートクレンジングの解散が決まり、実花も自らの居場所をなくしてしまったのだ。時計が時を刻む音にあおられるように、結婚への焦りを見せ始める実花。「もう、私には時間があんまりないんだよね」「だって、もう三十五歳なんだよ」そうつぶやく姿はかつての輝きを失っていた。

「誰かいい人、いないかな。私も落ち着きたい」という親友の願いに応えようとする佐知子だが、結婚への願いが実花の本心なのか疑わしくなってきて…。

 本作のキーワードとなるのがグループ名の「デートクレンジング」だ。カップル至上主義にとらわれ相手探しのデートに追われると、時に自分らしさを見失ってしまうことがある。だから女の子はデートしない時期を意識的に作ろう、という提案を示すアメリカの造語「デートクレンズ」に由来する。

「男に評価されなければ女は無価値という古いルールにNOを突き付けて、元気な女の子パワーを大事にしたい」と実花自身がグループに命名した。

「女は結婚して子供を産んで一人前」「結婚したら、それまでの友情は終わり」そんな世間の押しつけや、自らの思い込みに翻弄される2人の姿はもどかしいが、読み進めるうちに読者は自分の中にも見えない壁があったことに気付くかもしれない。自分らしさってなんだろう。誰だって、自分が心から納得できるオリジナルの幸せをあきらめちゃいけない。そんな叫びが胸を熱くしてくれる。

 時にはぶつかり、時には離れかける佐知子と実花。だがさまざまな出来事を通じ、2人の関係は新たな展開をみせていく。

 ライブ現場やバスツアーに行くなど、自らも熱いアイドルオタク(敬称)の著者ならではの描写は迫力満点。アイドルに興味のある人なら、魅力的な「デークレ」メンバーたちに推しの”あの子“を重ねてニヤリとするのも楽しい。

「私が私のヒーローだもん。やりたいことはたくさんあるの。デートの呪いをぶっつぶせ!」
(作中歌「デートをぶっつぶせ」歌詞)

 誰もが自分らしく生きられるよう、力強くエールを送ってくれる快作だ。

文=桜倉麻子