リストラ、サービス残業、過重労働…。ブラック企業は許さない!それが労基署

社会

2018/5/7

『労基署がやってきた!(宝島社新書)』(森井博子/宝島社)

「現在の給与が見合っていないという評価になったため、金額を下げさせていただきます。また今後もこれ以上にはならず、評価のたびに給与は下がることになります。他の業務をお願いすることも難しいため、有給休暇を含めて来月末で退社をお願いしたい。あくまでも自分の意志で」

 これは私の友人に聞かせてもらった、いわゆる“リストラ”の生々しい録音音声の書き起こしである。(法律に詳しい人は、この内容が法律的にかなり黒に近いグレーであることがわかるかもしれない。)

 友人はリストラの噂を聞いており冷静に録音できたそうだ。とはいえ通告されたばかりの彼は動揺しパニック状態だった。そこで彼にはある窓口に電話するよう伝えた。数日後、彼はその窓口のアドバイスで人事と交渉。無事納得できる条件で退職した。(ちなみに転職もできた)

 人事と条件交渉のやり取り中に窓口となった機関の名前を出した途端、条件はあっさりと受け入れられたそうだ。その機関が“労働基準監督署”、いわゆる労基署である。本稿で紹介する『労基署がやってきた!(宝島社新書)』(森井博子/宝島社)は、ビジネスパーソン全般向けに労基署についてやさしく説明している。

■労基署は、逮捕もできる国の直轄組織

 労基署とは3組織に分かれている“労働基準関係法令の実効性を確保するための国直轄の機関”のひとつだ。この“実効性の確保”とは、法律に違反した場合、行政指導と違反への処罰規定を行使するということである。

・厚生労働省(1省)
労働基準法などの定立や、都道府県を超える広域の案件にあたる。

・都道府県労働局(47か所)
重大悪質な法令違反の処理や、地方検察庁との連携などを行う。

・労働基準監督署(321署 ※2017年5月時点)
労働者からの申告の窓口となる。

 この3組織で仕事をしているのが労働基準監督官である。刑事罰が定められている労基法に違反があれば、労働基準監督官は特別司法警察員としての権限を行使する。ひらたくいえば司法事件に切り替え、逮捕状を請求、執行し、拘置所に連行。検察官に送致する。いわゆる“逮捕”ができるのである。

 このような労基署の逮捕権限の存在すら知らない人も多いだろう。著者である森井氏は元労働基準監督官であり使用者の逮捕も経験済。彼女が扱った事件は全国紙などのメディアでも取り上げられ、逮捕できる労基署を社会に知らしめた。しかし労基署による逮捕は年に1度あるかないかであり、労基署自体の認知度が低いことにつけこむ“ブラックな会社や社労士たち”は存在する。冒頭に書いた友人のように、労基署の名前を出すだけで会社側の対応が変わることがあることは覚えておいて損はない。

■社会を揺るがした電通事件が労基署の捜査体制を強化した

 本書では森井氏が労働基準監督官だったときの実務エピソードを紹介。そして電通の女性社員が過労自殺した、いわゆる“電通事件”に大きくページを割いている。この事件が労災認定された2016年には厚生労働省が“過労死等ゼロ緊急対策”という施策も打ち出した。メディアでも取り上げられ続け、社会的な影響も非常に大きかった。

 事件を担当した過重労働撲滅特別対策班“かとく”は大企業における広域捜査のノウハウを得、より捜査技術に磨きがかかった。事件後の2017年春には、対策班から対策室へ格上げされ、全国的な大企業を取り締まる捜査体制がさらに強化された。

■全てのビジネスパーソンは労働基準関連法令と労基署を知るべき

 本書を読んで確信したことがある。それはビジネスパーソンならばせめて労基署の存在を知ることが絶対に必要だということである。著者の友人のようにリストラにあった場合や、お勤めの企業にブラックな疑いがある場合、迷わず相談ができるからだ。しかも無料で。

 この記事をお読みのあなたが部下をもつ管理者であるならば、価値基準を会社まかせにしないことだ。電通事件では、社内常識であると残業させていた上司も、企業である電通とともに送検されている。労災や過労自殺は、周りがささいなことに気づくだけで防げると本書には書かかれている。管理職の方はまず部下や周りに気遣いと配慮からしてみてはいかがだろうか。それがひいては自分自身の身を守ることにもなるはずだ。

文=古林恭