キーワードは「ゆるいつながり」! SNSの有効な使い方とは?

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公開日:2018/5/7

『ゆるいつながり 協調性ではなく、共感性でつながる時代』(本田直之/朝日新聞出版)

「ゆるいつながり」と聞いて、何を連想するだろうか。おそらく、FacebookやTwitterなどのSNSを想像する人が多いと思う。そのとおり。『ゆるいつながり 協調性ではなく、共感性でつながる時代』(本田直之/朝日新聞出版)は主にSNSを活用して人とつながることの重要性を説いた本だ。しかし、SNSで多くの人とつながっていることに意味はあるのだろうか。答えはNoだ。みんながFacebookをしているから、とりあえず始めたという人、とにかく知り合いを増やすために友達申請をしまくっている、そんな人もいると思う。著者はそうした、目的のないつながりには意味を見出していない。代わりにゆるいつながりの中でどうやって人との関係を深め、よい仲間をつくればいいかといったテーマに関心がある人にはおすすめしたい本である。

 コンサルティング会社を経営し、大学の講師もしている著者の仕事はつきつめると「人と会うこと」だ。世間一般では、「何かを得るために人脈をつくろう。人脈をつくれば何か得をするだろう」という発想で人とのつながりを築こうとすることが多い。一方、著者は人脈とは「お互い情報を交換したり、人を紹介したり、刺激し合ったりして一緒に成長していけるようなマインドの高い仲間のこと」であるとしている。著者は単に知り合いになることと人脈とは明確に異なるものとしているのだ。

 こうした人脈を築くのにSNSは有効なツールだ。SNSによって、離れていてもゆるくつながることができるため、その人のプライベートな一面や考え方を垣間見ることができる。特にFacebookは、簡単な自己紹介ツールであるため時間が経っても、簡単にコミュニケーションができ、会ったときのリアルのコミュニケーションを加速させることもできるのが特徴だ。

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 SNSなど利用しなくても、有意な人間関係はつくれるという人はいるだろう。本書は組織のタテ関係を重視した従来型の人間関係を昭和的強制、SNSのようなヨコ関係のつながりをゆるいつながりと定義し、強制力の働きにくいヨコの人間関係が苦手な人は、これからの時代、ビジネスで成功するのは難しくなるだろうと述べている。ゆるいつながりでは組織よりも個人が重視されるため、オリジナリティや実力の有無が露骨に分かるからだ。今後は、たくさんの正社員を雇用していること自体が会社にとってリスクとなっていくと考えられるので、ビジネスシーンでもゆるいつながりが重視されるようになるだろう。

 ゆるいけれど深いつながりは無理のないシンプルな付き合いの先にできていくものであり、明快な一つのテーマのもとにさまざまな人が集まる中で自然発生するものだ。新しい発想は、まったくのゼロから生まれるよりも既存のものの組み合わせから生まれることの方が多い。それは日ごろから、どれだけ自分の中に多様性を持っているかにかかっている。まもなくAIの時代がやってきて、AIが人間の仕事を奪うともいわれている。ゆるいつながりこそが、オリジナリティを生み出すのであり、AI時代を生き抜く手段でもあるといえるだろう。本書で著者が最も伝えたいことは次の一文に集約されると思われる。

多様性のある人とのつながりは生き方の選択肢を増やし、いざというときのセーフティネットになることもあります。

 SNSで人とつながることは必要条件だが十分条件ではない。他人に興味を持ってもらい発展的な関係をつくるためには、相手にとって有用な人間になることが大前提だ。そのためには常に自分をアップデートする努力を怠ってはならない。SNSはそのためのツールであり、人とつながることそれ自体は目的ではないのだ。

 もちろん、今のままでいいという人に対して、著者も無理にSNSへの参加やその目的を考えろとは言っていない。ネットを駆使して人とのつながりを追い求めることに負担を感じる人もいるだろう。そのような状況に生きづらさを感じる人も相当数いると考えられるし、昭和的強制も一つの多様性として認めるべきだ。

 いくつになっても刺激的な人生を送りたいと考えている人にとって、本書の考え方は非常に有効だろう。

文=いづつえり