「目と鼻のない娘は14歳になりました」我が子との日々や心の葛藤が描かれたリアルな子育ての記録

出産・子育て

更新日:2018/5/14

『生まれてくれてありがとう 目と鼻のない娘は14才になりました』(倉本美香/小学館)

 大切な我が子に産まれつき障害があったら、親は何をしてあげられるのだろう。『生まれてくれてありがとう 目と鼻のない娘は14才になりました』(倉本美香/小学館)には、倉本氏が経験してきた我が子との日々や心の葛藤がリアルに描かれている。

 倉本氏は日本航空在職中にニューヨークへ留学し、現地の日本人男性との間に女の子を身ごもった。しかし、生まれてきた我が子は無眼球症で、目がなかった。“幾千幾万の人たちに愛され、多くの人たちに生きる力を与えてほしい”との願いを込め、千璃と名付けた我が子。

 この世で一番愛しい存在が先天性障害を抱えているという事実は、倉本氏の心に暗い影を落としていく。一時は母子共に屋上から飛び降りようとまで思った倉本氏を支えたのは人気アーティスト、DREAMS COME TRUEの曲と無邪気にはしゃぐ我が子の姿だった。希望を見出した倉本氏はそれから、我が子の障害と向き合い、手探りで治療を始めていった。

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 こうした状況で、倉本氏がまず傷ついたのは、周囲の人たちからの何気ない言葉だった。「娘は目が見えないのよ」と告白すると、決まって「見えない分、きっと耳が良いから、ピアノを習わせたらいいね」や「日本語と英語を話せたら、通訳ができるわね」というポジティブで楽観的な言葉を返されピリピリしてしまったのだ。

 障害児を育てている親は自分の子どもを分かってもらいたいと思う気持ちと、病気であることを知られたくないという、相反する想いの中で板挟み状態になってしまうことも多い。実際、筆者も先天性心疾患という病気を抱えており、親が悩み、苦しんでいる姿を間近でたくさん見てきた。先天的な障害は、完治というゴールが見えないことも少なくない。先の見えないトンネルを歩き続けなければならないプレッシャーや焦りはきっと、当事者である障害児が考える以上に、辛いものなのだろう。

 無眼球症の千璃ちゃんは他にも数多くの不自由を抱えている。口蓋が高く、顎の力も弱いため、食事の介助が必要になったり排泄のサポートをしなければならず、倉本氏とご主人は休息を取ることが難しかった。そんな時、当時千璃ちゃんが通っていた学校の先生から寮生活のあるスペシャルスクールを提案される。自分の子どもを他人の手に託すことは、親にとって不安でたまらないものだ。実際、倉本氏も親としての義務感や「自分のことを忘れてしまうのではないだろうか」という悩みを抱いた。

 しかし、障害を抱えていてもいずれは、親離れや子離れをしなければならない日が来る。そう自分に言い聞かせ、千璃ちゃんをスペシャルスクールへ通わせることに決める。その結果、孫のように千璃ちゃんをかわいがってくれたり、朝からずっと髪を撫でながら抱きしめてくれたりする寮スタッフに出逢えたのだ。

 親子が一緒に楽しく過ごせれば、それに越したことはないが、一緒に過ごすことだけが幸せではない。離れていても抱ける愛情もある。傍にいなくても大切に思うことだってできる。それは障害の有無に関わらず、どんな親子にも言えることなのではなかと筆者は思う。スペシャルスクールで心からの愛情を受けている千璃ちゃんはきっと、その名の通り多くの人に愛されながら、生きる力を与えていることだろう。

■障害者はどう生きていけばよいか

障害者にとって、より生活しやすい環境を作り出すことも、一つの方法だけれども、そこに加えて周囲の人たちが具体的に手を差し伸べる心を育成することが、私たち世代の役割なのだと痛感する

 倉本氏のこの言葉は日本の福祉が抱えている問題点を明らかにしてくれている。最近では「障害者」が「障がい者」と表記されることも多い。筆者は内臓疾患があるが、障害を抱えている身からすれば、表記に配慮するよりも心と体に寄り添った対策を求めたくなる。

 例えば、障害を抱えていると就職時、不利になってしまう。千璃ちゃんのように外見で判断されやすい障害は理解が得られるまでに時間がかかり、筆者のような見た目で症状が分からない病気だと、いくら「できます」と言っても、面接官に信じてもらえないことがある。こうした社会の仕組みがあったため、筆者はフリーランスという生き方を選んだが、障害があるからこそ、安定した職に就きたいと思っている方は多いと思う。

 障害者にはもちろん、できないこともある。しかし、健常者にも不得意なことや苦手なことはあり、他者と協力しながら不得手なことを乗り切っているはずだ。だからこそ、障害の有無に関係なく、フランクに助け合える社会に少しずつでも近づいていってほしいと願う。

千璃は、目に見えないたくさんのメッセージを持って天から降りてきた盲目の天使。

 そう語る倉本氏のように、多くの人が障害者に対して優しくも平等的な眼差しを向けられるようになれば、日本ももっと生きやすくなっていく。ハンデを抱えている障害者にも健常者と同じように、人生を楽しむ権利があるのだ。

文=古川諭香