アダルトビデオでまちおこし! 温かな気持ちになれる純愛エロ小説

文芸・カルチャー

公開日:2018/5/6

『桃色まちおこし』(室積 光/KADOKAWA)

 エロいのにピュア。性別の壁を越えて読破できる『桃色まちおこし』(室積 光/KADOKAWA)は、そんな感想を抱かせてくれる。本作には、SMやアダルトビデオといった卑猥な単語がたくさん登場する。しかし、読後は温かい気持ちで胸がいっぱいになるから不思議だ。

 物語の主人公となるのは親のスネをかじりながら暮らしていた、東谷知春というひとりの青年。知春は裕福な実家で就職浪人ライフを満喫していたが、アダルトビデオでまちおこしをしようと提案した艶女商店街の会長によって、アダルトビデオ監督の修行へ送り出される。しかし、知春はエロアレルギーという特異体質であり、刺激的な映像を見ただけで鼻血を出し、気絶をしてしまう。この、最もエロから遠い存在の男がどのように成長していくのかが、本書の大きな見どころだ。

 本作の中で知春が奮闘する姿は、一般の社会人となんら変わりがない。アダルト業界は一見特殊な世界のように感じられるが、そこに身を置く者たちにとっては、守らなければならない大切な日常だ。

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 知春はアダルト業界で暮らす人々に触れていく中で、徐々にたくましい青年へと成長していく。初めは嫌々修行を行っていた知春だったが、業界のドンたちの信念や考え方を聞くうちに、自分の職を全うしたいという想いが芽生え、真剣に修行に励むようになる。企画書を自ら提案したり、雑用をこなしたりする一生懸命な姿に、世の社会人は誰もが共感したくなるだろう。

■恋愛観を見つめ直せるエロ小説

 本作の見どころは、もうひとつある。それは、知春が心から愛せる女性を見つけていくところだ。アダルトビデオの監督になるため修行に励んでいた知春は、同級生でAV女優となった百合丘レミこと、島田るみ子を心から愛するようになっていく。そんな知春に周囲は考え直すよう、訴えかける。たしかにAV女優はとても特殊な職業だ。しかし、職業が一般的ではなかったら、好きになってはいけないのだろうか。

AV女優すべてを一括りにする言い方にも納得できないわ。当たり前のことだけど人それぞれよ。トモ君がレミちゃんと一緒にいたいと思うなら、そうすればいいだけ。そうよ、今一緒にいたいなら、今そうすべきなのよ。

 本作の中でゲイバーのママが知春に発したこの言葉はAV女優だけでなく、どんな恋愛にも通じるものだと思う。恋人や結婚相手を選ぶときは、どうしても周りの目を気にしてしまうこともあるだろう。しかし、本当に大切なのは相手の収入や職業、生い立ちなどではなく、自分が相手のことを愛しているという気持ちなのではないだろうか。人の幸せは他人のものさしでは計れない。それと同じで、誰かを愛する気持ちを計れるのも自分自身だけなのだ。

 エロをテーマにした小説は官能的で、ディープなイメージを与えることも多い。しかし、コミカルでピュアな本書は、女性も笑いながら楽しめる恋愛本だといえるだろう。変わった恋愛小説や心が温かくなるような純愛物語が読みたいと思っている方はぜひ、知春のまちおこしを見守ってみてほしい。

文=古川諭香