日本人はムダに働いていない? 定時に帰るならドイツ人に学べ

ビジネス

公開日:2018/5/8

『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』(熊谷徹/SBクリエイティブ)

「上司から指示されたら体調が悪くても出勤しないわけにいかないよ。それが社会人だしね」

 先日、たまたま外出先で私の耳に飛び込んできた言葉に思わず振り向いた。見ればまだ20代前半といった若い男性だ。一緒にいる友人達もそれに同調する。「いやいや、ちょっと待ってください。それパワハラに入るでしょ」と思わず突っ込みたくなるような会話が続く。いやはや何とも、日本の労働事情は相変わらず恐ろしいものだ。

 日本の企業で何らかの労働上のトラブルに遭遇した経験があれば、日本の労働者が法律で守られていないと感じる人は多いと思う。いや、実際にはトラブルという認識もなければ違法だと気づかない人も多い。労働上困ったことがあれば労働基準監督署に相談はできる。そこで違法と判断されれば企業に対して行政指導も行われる。企業側と労働者の間に食い違いなどが見られれば「あっせん」と呼ばれる話し合いの場をセッティングしてくれるが、企業側が認めない場合は実際にはなあなあで終わってしまうことも多い。
 なぜなら『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』(熊谷徹/SBクリエイティブ)に書かれているように、日本では残業を始めとした労働の法規制が十分とは言えないからだ。大手広告代理店の社員の過労死がきっかけで残業時間などの見直しはされている。しかし、まだ実際には大きな改革が行われたとは言いにくいものがある。

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 本書は、1990年からおよそ27年間ドイツで暮らしている熊谷徹氏が、短時間労働でありながら効率の良い生産性を誇るドイツの労働環境について書いている一冊。ドイツがなぜ残業をせず短時間労働で経済が好調なのかについて分かりやすくまとめられている。本書を読むまで「どれほど集中して仕事をこなすのだろうか」と思ったが、読んでみると納得だ。

 労働時間や失業率、生産性など各国のデータが分かりやすく資料として添えられており、それによるとドイツの労働生産性は日本より約46%も高い。しかし、ドイツでは会社員のほとんどが午後5時には退社するという。残業をさせると厳しい罰則があるのも理由のひとつだが、熊谷氏はもうひとつの理由としてドイツの国民性をあげている。家族や大切な人と過ごす時間、つまりプライベートを大切にしている人が多いことだ。

 個人的にも日本人の多くが残業や休日出勤を受け入れてしまうのは、国民性による部分は大きいと感じる。もちろん、残業や休日出勤が多い企業ばかりではない。自分が会社員として勤務していたある企業は社員全員が定時で退社していた。終業時間の10分前、早ければ20分前にはすべての業務が完了し、タイムカードを押す時間が来るのを待つのが当たり前の企業であった。実際、その企業では定時で退社しない社員のほうが不思議な目で見られていたのだ。それを考えると社内全体に残業しない空気ができていれば、難しいことではないと言える。

 ドイツでは午後3時に退社する人もいるそうだ。なぜそのようなことが実現できるのか知るためにも、ぜひ本書を読んでほしい。プライベートの時間を重視し、かつ生産性を上げることは法律に頼らずとも会社レベルで可能ではないだろうか。経営者を始めそこで働く人の意識が変われば、日本もドイツのように残業をせず生産性を上げるのも無理な話ではないかもしれない。

文=いしい