知っている話なのに心揺さぶられる! 読者を感動の渦に包む原田マハ版『奇跡の人』

文芸・カルチャー

2018/5/10

『奇跡の人 The Miracle Worker』(原田マハ/双葉社文庫)

 盲目で、耳が聞こえず、口も利けない少女と、教師が起こした奇跡の物語…といえば、ヘレン・ケラーとアン・サリヴァン女史の物語がある。もし、ヘレンとサリヴァン先生が日本人だったとしたら? 原田マハ氏の『奇跡の人 The Miracle Worker』(双葉社文庫)は、明治日本の津軽地方を舞台に、ヘレンとサリヴァン先生の物語を新たに描いた実験的小説だ。

 主人公は、旧幕臣の娘・去場安(さりばあん)。岩倉使節団の留学生として渡米した彼女は帰国後、「日本にも女子教育を広めたい」という情熱を抱えていた。ある日、伊藤博文から「盲目で、耳が聞こえず、口も利けない少女」が青森県弘前の名家にいるという手紙をもらった彼女は、その少女・介良(れら)れんの教育係になることに。だが、れんは、食事のしつけも排泄のしつけもされておらず、暗い蔵に閉じ込められ、使用人たちからは「けものの子」として扱われていた。自身も弱視であり、そのハンデを抱えながらも留学して勉強してきた安は、れんの中に眠っている才能をどうにか開花させたいと強く願い、徹底的にれんと向き合っていく。2人を待ち受けている運命は。安とれんの奮闘の日々が今、始まる。

 誰もが知っている物語を下地にしながら、恐山のイタコやボサマと呼ばれる芸人など、津軽ならではのモチーフを取り入れ、ヘレンとサリヴァン先生の物語を完全なる日本の物語へと生まれ変わらせたこの作品。読者はこの物語をどのように読んだのだろうか。

日本津軽版『奇跡の人』。三重苦のれんを取り巻く環境の過酷さに胸を痛める安の祈るような切実な想い。思うようにはいかない現実の理不尽さに憤り、理解を得ようともがき感じるもどかしさに幾度も共鳴し涙ぐんだ。盲目の少女 きわの引き際にまた涙。永い別離の後の再会に、彼女たちは安が託した言葉で何を語るのか…明るく光り差し込む終幕に、この物語を届けてくれてありがとうと伝えたい。

さこちゃん

誰もが知っている実話を元に書いているので、ストーリーは分かってるんです。でも、マハさんの言葉の力強さや繊細さに、思わず頑張れっと応援したくなる。地の果ての隔絶されたイメージが、三重苦の孤独と寂しさを一層強く感じさせた。いつもながらの読後爽やかマハ小説。

Kiyo

可能性を信じ続けて向き合い続けてくれる人に出会えたことが奇跡だ。 自分ならどうするか、考えてしまう。 安のように人の可能性を信じて、逃げずに真剣に向き合うことが、できるだろうか? かわいそうなれんを無条件にかわいがる、手におえなくて好き勝手させることはできても、教育する自信はない。 自分がれんだったら。キワだったら。安だったら。 自分の置かれた環境で精一杯生きる。 環境を打破してでも信じる道を突き進む。 生きることの喜びを感じながら、毎日を過ごそうと思う。

 安とれんの奮闘から目が離せない。教育とは何か。障碍とは何か。生きるとは何か。心に広がるあたたかなこの感動をぜひともあなたも味わってほしい。

文=アサトーミナミ

(※読者コメントは株式会社トリスタが運営する「読書メーター」より)