『イッテQ!』『行列』…人気番組はこうして誕生した!! 日テレvs.フジ、視聴率争奪戦の最前線

エンタメ

2018/5/11

『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』(戸部田誠/文藝春秋)

 私は以前、元日本テレビ(以下、日テレ)のスターディレクター(人気番組を作れるディレクターのこと)のひとりで、70年代からUFO・超能力番組を仕掛けて有名になった矢追純一氏に、「UFO番組を始めた動機」を問う機会があった。

 すると「多くの人が下を向いて、元気なさそうに歩いている。だから番組を通してみんなに空を見上げさせ、元気にしたかった。ちょうどいい話題が“空にUFOがいる!!”だったんです」と、矢追氏は笑った。「テレビディレクターとは、かくも面白い発想をするのか」と感心しつつ、ヒット企画に隠された矢追氏のそんな思いに感動したのである。

 ということで、業界絶対の不文律(ふぶんりつ)である「視聴率」をめぐり、テレビ番組制作の裏側で粉骨砕身、獅子奮迅の働きをする男たちの攻防を描いたドキュメンタリー、『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』(戸部田誠/文藝春秋)をご紹介しよう。

●わずか「0.01%」の差をめぐる日テレvs.フジの攻防

 本作のメイン舞台は、90年代の日テレの番組制作現場だ。80年代以降の日テレは、スターディレクターの不在から、人気が低迷。年間視聴率3冠王(※1)の座は、12年もの間、フジテレビ(以下、フジ)が独占していた。そこで92年、王座に返り咲くべく新社長に就任したのが、故・氏家齊一郎(うじいえせいいちろう)氏だった。

「日テレをよくするために必要なことをすべて言え」と、視聴率争いの最前線にいた30代のディレクターたちに意見を求めた氏家氏は、こう即断する。「お前らが言ったことを明日から全部やれ」──。テレビ局には、広告収入を得る営業、番組の統括管理を行うプロデューサーほか、様々な職種がある。氏家氏の改革は、中でも番組の企画・制作の中心であり、視聴者のニーズにいちばん近い存在のディレクター陣に、よりよい環境を提供することだった。

 そして1995年1月2日、日テレは、悲願の年間視聴率3冠王に返り咲く。フジとの差はわずか「0.01%」だった。

 本書は、この僅差をめぐる攻防を軸とし、逆転劇の主役となった人物(ディレクター、プロデューサー、タレント諸氏)たちの略歴などにも触れながら、誕生した番組の数々のドラマを描写していく。さらに、歴代の人気番組を過去から現在へと縦糸に繋げてその系譜をたどり、日テレ魂(DNA)=“えげつなさ”の正体に迫ろうと試みるのである。

●招聘した“異星人”のために重役用会議室を用意していた!?

 70年代の日テレのえげつなさをまず紹介しよう。冒頭に紹介した当時のスターディレクターのひとり、矢追氏のUFO企画が最初に放送されたのは、日本初の深夜ワイドショー番組として人気を博した『11PM』(65年11月~90年3月)だった。日テレ上空にUFOを呼ぶというその日、プロデューサーとディレクター陣との間で、こんなやり取りが交わされていたことを本書は明かしている。

「今夜、UFOを呼ぶんだろう? もし宇宙人が来たらどこへ通すんだ?」 こうプロデューサーに聞かれ、ディレクターは慌てて重役用会議室の確保に向かう。そして用途欄に「異星人接待」と記入し、部屋を確保したという。

 本書のいちばんの笑いどころではないか。一般企業なら部長職以上の役職であるプロデューサーが、決して冗談を言っているのではないのだから。好奇心旺盛な少年のごとく、真剣にUFO番組に取り組む。こんな大人たちの“ピュアな冒険心”は、まさに日テレを代表するえげつなさのひとつなのだ。

●記録よりも、記憶に残る番組『進め!電波少年』

 では90年代には、誰がどんな番組を手がけて、起死回生の糸口を作ったのか。そのひとつは間違いなく、92年に土屋敏男氏(当時36歳、ディレクター)がてがけた、『進め!電波少年』(92年7月~98年1月)だったと著者は記す。

 知名度のないタレントたち(松本明子、松村邦洋ほか)が、「アポなし訪問」「海外ヒッチハイク」「無銭生活」などで無謀なチャレンジをする番組だ。日テレ伝統の冒険心を土屋氏は、「(視聴率という)記録より、(視聴者の)記憶に残る番組を作ろうと思う」(本書より)と、そのまま番組化したのである。3ヶ月限定の穴埋め番組だった(と本書は明かす)からこそできたこの大胆な発想が、予想外の高視聴率を叩き出す。

 こうして「タレント人気に頼らない“企画ありき”の番組づくり」は、日テレのえげつなさの大きな柱となる。

「電波少年」シリーズで育った古立善之氏はその後、『世界の果てまでイッテQ!』で無名のイモトアヤコに無謀なチャレンジの数々をさせ、視聴者の心をつかむ。先輩たちから得た薫陶、えげつなさを、現在に継承しているのだ。

 本書には他にも、『24時間テレビ』『行列ができる法律相談所』『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』『THE夜もヒッパレ』『恋のから騒ぎ』『ガキの使いやあらへんで!』ほか、日テレの伝説的なバラエティ番組とそれを手がけたディレクター、プロデューサー諸氏が登場し、大物タレントを登場させるための知られざる苦労話ほか、その舞台裏を様々に明かしてくれる。

●えげつない取材で、えげつない勝ち方を浮き彫りにする

 さらに本書が徹底しているのは、日テレだけでなく長年にわたるライバルのフジにも取材を行い、朝の番組をめぐる攻防や「月9」誕生秘話等を通して、両社の違いをより多角的に考察していること。まさに日テレのえげつない勝ち方を、文春(本書は『週刊文春』の連載に大幅加筆したもの)ならではの、えげつない取材攻勢で、より明確に浮き彫りにしていくのである。

 近年、テレビ離れが加速しているというが、本書を読むと、思った以上にテレビ番組制作者たちは視聴者の方を向き、私たちが望んでいるもの、あれば役立つであろうものを提供しようと、努力していることがわかる。そしてその裏では、時に、放送されるコンテンツ以上にドラマチックな出来事が繰り広げられているのだ。

 モニター(もしくはブラウン管)からでは見えてこない、そんな世界をのぞいてみたいという方に、ぜひ、本書をオススメしたい。

文=町田光

※1 視聴率3冠王:午前6~午前0時の「全日」、午後7~10時の「ゴールデン」、午後7~11時の「プライム」の三つの視聴率で民放トップになること。