童貞男子は大人の色気をふりまく先輩を落とせるか……『シガレット&チェリー』

マンガ

更新日:2018/5/21

『シガレット&チェリー』(河上だいしろう/秋田書店)

「きれいなおねえさんは、好きですか。」とはパナソニックの美容家電のキャッチコピーだが、そう問われて「はい!」と答える以外にあるだろうか。美人でスタイルがいいというだけではなく、凛として、どこか影があって、シンプルで露出のすくないパンツスタイルなのに、ただよう色気。そんな女性が目の前でタバコをアンニュイに吸っていたら、男だろうと女だろうと関係なく、間違いなく惚れるだろう。

 そんな理想のおねえさんと大学入学早々に出会った童貞男子の恋を描いた『シガレット&チェリー』(河上だいしろう/秋田書店)がいま、熱い。

 つらかった男子校生活をのりこえて大学デビューを果たした主人公の“後輩クン”。見た目も中身も正直言って、ただの猿。本で読みあさったモテテクを武器に彼女をつくろうと意気込んでいた矢先、喫煙所で出会ったのが謎めく美女の“先輩”。当然のごとく後輩クンは恋に落ちる。

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 だが、いきがっているだけのタバコ未経験者だとすぐに見抜かれ、小手先のモテテク実践はすべて軽々とあしらわれる。まあ正直、実戦経験のない後輩クンの武装は無駄なガラクタのよせあつめなので、たいていの女子にも蹴り飛ばされて終わりだと思うのだけど、先輩は装備をむりやり引きはがして恥をかかせるようなことはせず、不格好に突進してくる後輩クンを、あたかも自力で舞えているかのように勘違いさせながら、掌で踊らせてくれる。そのあしらい方は、まさにクール。正直いって、おまえに先輩はもったいなさすぎるだろう、なにを夢見てんだあほかと、読みながら後輩クンには突っ込みどころしかない。

 しかし、なにやら男がらみで過去に傷をもつらしい先輩が、後輩クンを突き放さずに相手する理由も少し、わかる気がする。あまりに一直線でわかりやすすぎる彼を相手に、やたらに防御線を張る必要はない。思うようにくるくると表情を変えて反応してくれる姿は、うっとうしいけど、かわいらしくもある。もし先輩が、恋の駆け引きや嘘に疲れて男を遠ざけているのならば、男の誠意を信じられずにいるのならば、彼の真心はもう一度信じる心をとりもどすのに一役を買ってくれるかもしれない。

 ……というところも含めて童貞男子の夢がてんこもりのこの作品。正直、後輩クンはあくまでリハビリ相手で、先輩が恋をすることはないんじゃないかなあと思うのだけど(先輩とバイト先が同じで、先輩の信奉者ともいえる巨乳眼鏡女子のほうが、いろんな意味でお似合いである)、大事なのは恋が成就することよりも、いかに振り回されるかなんじゃないかという気がする。一生に一度くらい、それも初恋くらい、相手のために無我夢中にぶざまな姿をさらしたっていいじゃないか。その熱意で、きれいなおねえさんがいろんな顔を見せてくれるのならば、ときどき笑ってくれるのならば、それだけで最高の幸せだ。読者としても、後輩クンを通じて、誰もが恋する先輩のクールでかわいくて色気たっぷりの、いろんな素顔を見てみたい。過去に何があったのかも、少しずつでいいから知っていきたい。わりと衝撃的なところで1巻がしめくくられるので物語の展開も気になるところではあるけれど、とにもかくにも先輩の美しさを堪能したい作品である。

文=立花もも