裏切られた元カレ、生き別れた父親、支配的な母親――女子高生の殺人計画はどうなる?
更新日:2018/5/21
誰かを「殺したい」と願うほど憎んだことはあるだろうか? 自分ではコントロール不可能である残酷な出来事がしれっと起こる世の中だ。死ぬほど憎い相手が一人や二人いたって、別におかしくはないだろう。
だが、実際に手を下すとなると話は違う。誰かを憎み続けることそれ自体がとても体力のいることだし、相手がいなくなったところで、自分の理想とする世界を生きられるかというと、それはまた別の話かもしれない。
高野雀のマンガ『世界は寒い』(祥伝社)は、女子高生6人組が、突然「拳銃」を拾い、様々な思惑を抱く物語だ。
物語は、フードコートでバイトする女子高生6人が、ある日、紙袋に入れられた忘れ物である拳銃を見つけるところから始まる。
社員も店長も不在のその日、てっきりモデルガンだと思い込んだ彼女たちは、バイト終了後、一発試しに撃ってみるのだが、撃った瞬間体が吹き飛ばされてしまい、本物であることが判明する……!
彼女たちは拳銃を前に一瞬怖気づくものの、
女子高生が銃でひとを殺すなんて誰も思わない これってチャンスじゃないの?
と、それぞれが共犯になり、消えてほしい人間を考え、来るべき日に「執行」すべく準備を始めることになるのだが――!?
彼女たちは銃を発見して以来「殺したい奴」を考え始める。
例えば、動画配信サイトで炎上を繰り返すものの、実はとても小心者で周りをよく観察している古賀は、裏切った元彼のことを。
高校を中退して、働きながら大学受験を目指す三好は、家族と仕事を捨て、酒を飲んで暮らす父親のことを。
進学校に通う早坂は、娘を思い通りに操ろうとする高圧的な母親と、自分自身のこれからに思いを馳せる。
彼女たちが持つ鬱屈した思いを見ていると、この世は本当に生きづらさに満ちている場所なのだなあ……と感じる。また、拳銃を使った計画を秘密裏に進めることで、久しぶりにワクワクした気持ちになり、彼女たちの生きる支えとなっているのも、妙にリアルで、少しばかり寂しさを感じた。
高野雀の前作(『13月のゆうれい』『あたらしいひふ』など)同様、やりきれない閉塞感と鬱屈とした心理描写が、テンポよく、胸に迫り来るように描かれる。6人それぞれのキャラクターや個性も際立ち、殺したい相手がいる者もいない者も、これまで以上に仲を深め、お互いを支えて生きているのも印象的だ。
とはいえ、本作はまだ序盤。誰が何のために拳銃を置いていったのか、彼女たちが本当に人を殺すのか、邪魔な人間を消したところで、事態は本当に好転するのか……謎は深まるばかりである。
大人になると、誰かを好きになるパワーも、恨み続ける気力も、年々衰えていき、ただ漫然と生きる日々が増えたように感じることがある。
人は殺さなくとも、この薄ら寒い世の中に、風穴を開けるラストが読みたい――! そんな期待を最大限に抱きつつ、楽しみに続きを待つことにしよう。
文=さゆ