復讐と救済の狭間で、なんのために戦う――。どこまでも真っ直ぐな青春系異能バトル小説、ここにあり

文芸・カルチャー

2018/5/16

『海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと』(著:石川博品、イラスト:米山舞/KADOKAWA)

 ある日不意にやってきて日常を根こそぎ奪い去っていく〈厄災〉。現実世界においてそれは天変地異であったり事故であったり戦争であったりと様々な形をしてやってくるが、エンタメ小説ではそれらに加えてゾンビの大量発生だったりパンデミックだったり全面核戦争だったりと、作家が思いつく限りの惨劇でもって登場人物たちから日常を奪い、世界の終わりをもたらしてきた。

 その厄災を生き残った、あるいは生き残ろうと奮闘する人々の姿を通して、人間とはなにかという問いを描くのが「終末もの」の醍醐味だが、石川博品の手による本作、『海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと』のイントロダクションもまた、それらの作品に通底する死の匂いと絶望に包まれている。

 山あいにある街、津久見市である日発生した謎の感染病。トレイルランにのめりこむ高校生上原蒼(うえはら そう)は、その病によって家族を失い、自身の身体にも変異が起こったことを知る。街の住民の多くが命を落とす厄災につづき、彼の前にあらわれたのは蜥蜴にも似た異形の存在たちだった。家族を、日常を、彼が愛したすべてを奪い去っていった厄災をもたらした存在に、蒼は復讐を誓う。変異がもたらした、右腕に宿った武器を携えて――。

 物語は、すべての戦いが終わったのちの回想として描かれていく。蒼は、ともに戦い傷ついた仲間が身体を休める病院に通い、尋ねられるままに壮絶な記憶をぽつりぽつりと語る。手に入れた異形の存在〈魔骸〉たちを葬り去る力について。人々が消えた街で再会した同級生について。親しい人たちの死と、復讐に駆られた戦いの様相について。

 蒼の回想から、やがて彼の故郷に起こった厄災の全容が見え始める。幸いなことに、感染病の流行は津久見市とその周辺一帯だけにとどまっていた。だが、まだ高校生の蒼にとっては、外部から隔離されてしまったその故郷が世界のすべてだったのだ。滅び去ってしまった世界にただひとり踏みとどまり、復讐の熱に浮かされるように、〈魔骸〉と戦う蒼。

 しかし彼の前に現れた二人の少女――ハルカと沙也の存在が、彼の戦いを変えてゆく。

「人々を助けるために」街の外からやってきたハルカたち。彼女たちの目的が明らかになった時、蒼の戦いはただの復讐から、彼女たちを守り、生き残るためのものに変化する。

 謎めいた侵略者。少年少女にしか発生しない身体の異形化。これらの要素により異能バトルアクションに分類されるであろう本作だが、石川博品の端正な筆致はあくまでも冷静で、どこか冷めた振舞いを見せる主人公、蒼をみずみずしく描き出す。他者との距離感に戸惑い、それでも不器用に近づいていく彼の姿は、殺伐としたこの物語に青春恋愛小説という側面ももたらした。むしろこの物語は、蒼とハルカの物語なのだ。そして彼らが取り戻そうとした何かは、ハルカたちがその身の病を癒す海辺の病院のどこかにまだ取り残されたままでいる。

 ページをたぐる読者もまた、ふたりが紡ぎ出す物語に引き込まれていくはずだ。ライトノベルを中心に活躍する著者による、青春バトルアクションの快作。