あなたは生まれ変わっても、いまのパートナーを愛せますか? とある夫婦が紡ぐ、感動的な愛の歴史

マンガ

更新日:2018/5/21

『生まれ変わってもまた、私と結婚してくれますか』(森永ミク/KADOKAWA)

 幼い頃、ぼくの祖母と祖父は非常に仲が悪かった。同じ屋根の下に暮らしても口をきかないことは珍しくなく、顔を合わせればしょっちゅう喧嘩をしていた。それを見て、幼いながらも「離婚すればいいのに」と、冷めた気持ちになったことを覚えている。だからだろう、祖父が亡くなった夜、祖母が静かに涙を流していたことが、いまだに忘れられない。どうしてそんなに泣いているの? そんな疑問に対する答えを聞けぬまま、とうとう祖母も亡くなってしまった。

 夫婦間には、そのふたりにしかわからないことがたくさんある。どんなに仲が悪いように見えても、心の奥底ではつながっていたりするものだ。ともに歩んだ歴史が長ければ長いほど、絆は深まり、糸が複雑に絡まる。

 4月27日(金)に第1巻が発売された『生まれ変わってもまた、私と結婚してくれますか』(森永ミク/KADOKAWA)は、まさにそんな「夫婦」の絆をテーマにした作品だ。本作はコミックレーベルであるジーンピクシブの「レジェンドマンガ賞Ⅲ」にて大賞を受賞。とある老夫婦の現在と過去が交錯していくストーリーで、「愛とはなにか」を強く訴えかけている。

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 主人公となるのは、伊吹造園の次男・寅之介とその妻である薫。病室に横たわっている寅之介が「生まれ変わっても また 俺と」と薫に語りかけるところから物語は幕を開ける。そこから描かれるのは、ふたりの出会いと結婚に至るまでのストーリーだ。

 彼らが出会ったのは、幼少期の頃。いじめられている仔犬をかばい自らがボロボロになってしまった寅之介に、薫が声をかけたことがきっかけだ。暴行を受けてまで犬を守ろうとした寅之介。薫は彼のそんなやさしさに触れ、「ふたりで犬の親になること」を提案する。「あなたがおとうさんで、わたしがおかあさん」。薫の言葉に、寅之介は胸の高鳴りを抑えることができない。これが、ふたりのはじまりだった。

 それから明らかになる薫の生い立ち。造園の息子として何不自由なく暮らしてきた寅之介とは異なり、奉公人として家を出ることを余儀なくされていた薫。けれど、奉公先でひどい折檻を受け、左目の視力を失ってしまった薫は家に戻ることに。しかし、あらためて奉公に出ることを決める。その奉公先こそが伊吹造園。そう、寅之介の家だったのだ。そして、“仔犬事件”以来、久しぶりの再会を果たしたふたりは、少しずつその絆を深めていく……。

 本作の物語は、病室の寅之介に薫が語りかけるカタチで展開されていく。寅之介の身に何があったのかは明かされていない。しかし、見舞いに訪れる友人の「頼むから死なんでくれよ」といった発言からも、その病状が軽いものではないことが想像される。そして、「私がまだまだ死なせませんから!」という薫の力強い言葉から伺えるのが、ふたりの間にある深い愛情だ。

 物語はまだはじまったばかり。これからふたりの歴史がゆっくりと丁寧に語られていくのだろう。しかしながら、その先にある哀しい結末を予感させるのが、この「生まれ変わってもまた、私と結婚してくれますか」というタイトルの言葉だ。

 長年連れ添ってきた配偶者に、この言葉を投げかけることができる人はどれくらいいるだろう。ましてや、ここ最近は「ゲス不倫」というフレーズが妙なブームになるなど、パートナーを裏切る不貞行為がたびたび話題になっている。そんな時代において、永遠の愛を信じることがいかに難しいことか。

 けれど、本作を読み、思ったことがある。それは、愛というものは他人にはわからないものだ、ということ。育んできた歴史と比例するように、それは複雑なものへと変容していく。ゆえに、きっと誰もが求めてやまないのだろう。

 本作は、いまこの時代だからこそ生まれたピュアなラブストーリーだ。とある夫婦が紡ぐ、長い愛の歴史。それを絵空事だと笑い飛ばす人もいるかもしれない。しかし、そんな絵空事を信じてみたくなる揺るぎない強さが、そこにはあるのだ。

文=五十嵐 大