ビッグデータで何がわかる? 何ができる? 震災ビックデータが描き出すいのちの軌跡

社会

2018/5/14

『データでいのちを描く テレビディレクターが自分でAIをつくったわけ』(阿部博史/NHK出版)

 ビックデータという言葉が一般にも知られるようになってすでに何年か経つ。少し遅れてAIも流行語となり、今や「AIによって○年後にはなくなる職業リスト」が週刊誌の特集で組まれるくらいだ。ビックデータとAIによってすごい大転換が社会に起きるよと日々せっつかれている気になるが、結局、ビックデータとAIで何ができるのか。

 本書『データでいのちを描く テレビディレクターが自分でAIをつくったわけ』(阿部博史/NHK出版)は、ビックデータとAIの活用事例を当事者が一般の人向けにまとめたものである。

 ビックデータの事例として、NHKスペシャル「震災ビックデータ」が紹介される。これは、2013年3月から2015年3月にかけて、4回にわたり放送されたもので、東日本大震災をビックデータという切り口で検証する番組だ。

 著者は、NHKのディレクターとして東日本大震災の報道に携わるが、後に残ったのは無力感だという。震災当時、報道フロアには情報がひっきりなしに飛び込んできたが、情報の渦の中で、伝えるべき情報を、それが必要とされるタイミングで報道しきれなかったという後悔にさいなまれた。だが、震災発生からしばらく経ち、膨大な情報の整理を進めるうち、震災を理解しすべてを伝えるにはデータが足りないと感じはじめる。そしてたどり着いたのがビックデータだった。

 扱った「震災ビックデータ」は多種多様だが、次の4つに分類できる。

 1つ目は「意思を持って発信された情報」。被災地の方が自分の意志で発信した動画やツイートなど。現地に赴くことが難しい場合には、重要な一次情報となる。

 2つ目は「自然に生み出される情報」。気温や震度などの観測データや、自動車や携帯電話から得られる位置情報など、自動的に生成され蓄積されるもの。これらは、いわば、いのちに直結した基礎情報である。

 3つ目は「外部者が生み出す情報」。救援部隊が移動できた経路を示すデータは、救援、支援、避難に確実に利用できる“いのちの道”を示す。また、現地における物資の供給状況を把握することができる。

 4つ目は「積み上げられた情報」。前述の3つは、時間の経過とともに変化していく。同じ情報であっても、時系列で追うと見方が変わる。例えば、地域ごとにマスコミによる報道の累積回数を調べれば、報じられていない空白地を洗い出し、救援から取り残される人為的なミスを回避することがきる。

 これらのデータを、企業、省庁の垣根を越えて提供してもらい、データをビジュアライズ(可視化)していく。これほどに多くのデータを集めた理由はただひとつ、全貌把握こそが重要だったからだ。

「震災ビックデータ」では、カーナビのデータと携帯電話の位置情報をもとに、震災直後の津波による浸水域近辺の自動車の軌跡をビジュアライズした。すると、最初の揺れが収まった後、1000キロにわたる海岸沿いの地域で“戻ってくる動き”を発見した。

 海の近くにある自宅に、残してきた家族の安否を確認するために向かった人たちがいた。宮城県名取市の浸水域では、地震発生時よりも津波到達時の方が、人の数が多かったことがデータから明らかになっている。大きな地震が来れば津波が押し寄せる危険がある。わかっていても助けに戻る――そんな選択をする人もいる。これは特筆すべき事実であり、次の災害時の避難プランを練る際に活用すべき知見である。

 また、これは阪神・淡路大震災の例だが、地震当日に発生した火災は205件あった。時間の経過とともにどの地域で火災が発生したのかをビジュアライズし、そこに通電した時間のデータを重ねてみた。すると、通電後にその付近で火災が発生したことが読み取れた。このように、異なる情報の条件(レイヤー)を重ねることによりわかる事実がある。

 ビックデータとは巨大という特徴以外、従来のデータと大きな違いがあるわけではない。ビジュアライズやレイヤーによってデータから何を読み解けるか、これはデータを見る者の知見や想像力がものをいう。著者はいう。「社会のデータは、なぜ存在しているのか。それは、人の営みがあるからです。(中略)データを生み出した現実を知ることで、そのデータを“血の通った”ものにできるはずです」。

 データという無機質に思えるものから“いのち”をあぶりだす。「データが表すいのちがあり、データで描けるいのちがある。そして、データで救えるいのちがあるのだ――そう信じています」という結びが示すように、震災を経験したジャーナリストの使命感にあふれた1冊。本レビューではAIについては触れなかったが、同じスタンスでAIの活用を試みた事例も紹介されている。ビックデータとAIがどう社会課題の役に立つのか、参考とされたい。そしてデータアナリストなどデータ解析に携わる人にも、刺激を与えてくれるだろう。

文=高橋輝実