健診を受けていれば長生きできる? もっともらしいデータに騙されないためのテクニック

ビジネス

2018/5/16

『「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法』(中室牧子・津川友介/ダイヤモンド社)

“メタボ健診を受けていれば長生きできるのか?”

 なんとなく「イエス」と答える人は多いのではないだろうか。だが、経済学の研究はこれを否定している。それにもかかわらず「イエス」と答えてしまうのは、私たちが「因果関係」と「相関関係」を混同しているからだ。

『「原因と結果」の経済学 データから真実を見抜く思考法』(中室牧子・津川友介/ダイヤモンド社)は、データの関係性を正しく見分けるための「因果推論」がわかりやすく説かれた1冊だ。タイトルには経済学とあるが、日常生活でもこの「因果推論」を身につけておけば、思い込みや根拠のない説にとらわれる事なく、正しい判断ができるだろう。

■そもそも「因果推論」ってナニ? なんで必要なの?

 冒頭の問いを正しいと言うためには、「メタボ健診」と「長生き」との間に、「因果関係」が存在していなければならない。これを見極めるための方法が「因果推論」だ。相関関係には、「因果関係」と「疑似相関」の2つがある。

●因果関係
 ・原因が起きた、「だから」結果が起きたという関連性

●疑似相関
 ・何らかの関連性はあるものの、原因と結果の関係ではない

 メタボ健診を受けた人と受けない人を比べて、メタボ健診で生活指導を受けた人たちは翌年腹体重が減り、血圧が低くなったというデータがあったとしよう。これだけだとメタボ健診を受ければ、健康になり長生きできると言えそうだが、このデータだけでは、「メタボ健診を受けたから長生きできる」(=因果関係)のか、「長生きするような健康意識の高い人はメタボ健診を受けることが多い」(=相関関係)のかを、判断することはできない。その先に用いられる手法が「因果推論」であり、以下の5ステップで進められる。

「因果推論」の5ステップ
(1)「原因」は何かを確認
(2)「結果」は何かを確認
(3) 3つのチェックポイント(※1)を確認
(4)反事実(※2)を作り出そう
(5)比較可能になるよう調整しよう

(※1)3つのチェックポイントは以下の通り
 1.まったくの偶然ではないか
 2.交絡因子(原因と結果の両方に影響を与えるもの)が存在しないか
 3.逆の因果関係は存在しないか

(※2)反事実の例は以下の通り
 例えば、「コーヒーを売るために広告を出したところ、売上が伸びた」という事例では、「仮に広告を出さなかったときの売上」が反事実にあたる

 上記(4)にある反事実は、実際に把握することが難しいかもしれない。その場合には、(5)の比較可能になるよう調整するステップが有効だ。例えば、「仮に広告を出さなかったときの売上」について知るには、「同時期に、広告を出さなかったライバル店の売上」で代用して判断材料として置き換えることもできる。

 本書では、このほかにも以下のような事例について、因果推論とデータを用いた経済学の研究結果が紹介されている。

 ・受動喫煙は、心臓病のリスクを高めるか?
 ・認可保育所を増やせば、母親は就業するか?
 ・テレビを見せると、子どもの学力は下がるか?
 ・女性管理職を増やすと、企業は成長するか?

 推論のテクニックを理解するのもさることながら、これらの事例が果たして因果関係にあるのかどうかを知りたい人も多いだろう。本書は因果推論の入門編として極力平易に書かれており、経済学上の数式は一切登場しない。読んでいてさらに知識を深めたくなった人は、巻末のおすすめ本リストを参考にしてもよいだろう。

■情報氾濫時代だからこそ、データを正しく使いこなしたい

 本書は、経済学者と医師の共著である。著者たちいわく、因果関係がはっきりしない、根拠のない通説が山のようにあるのが教育と医療の分野なのだという。

 私たちの周りにはたくさんの情報が溢れている。その中には「根拠データがある」といわれ、実際には因果関係がない俗説までも信用してしまっていることもあるのではないだろうか。だがそれでは時間もお金もムダにすることにつながりかねない。「因果推論」のテクニックを身につければ、「私はこのサプリを飲んで痩せました!」という広告をみても、それが本当に因果関係にあるのか自分自身で判断できるようになる。また、仕事で因果推論に基づいたプレゼンをサラリと行えば、ぐっと説得力が増すだろう。本書は、データ氾濫時代において自分の身を守り、生き抜いていくための武器となるはずだ。

文=水野さちえ