衰退産業だなんて言わせない! 理容女子が床屋さん業界に革命を起こす!?

文芸・カルチャー

2018/5/24

『キリの理容室』(上野歩/講談社)

 お仕事小説が人気の昨今、今度は、理容師女子が話題となるかもしれない。上野歩氏著『キリの理容室』(講談社)は、女性も通える大人気理容店を開くことを夢見て奮闘する新米理容師を描いたお仕事小説。理容室は男性ならば一度は訪れたことがあるかもしれないが、女性にとってはあまり馴染みがない場所だろう。美容師とどう違うのか。どんな仕事をするのか。小説すばる新人賞でデビューした上野氏がその取材力を生かして、理容業界の理想と現実を描き出したこの小説はほのぼのとあたたかい。

 主人公は、神野キリ、20歳。彼女は、自分と父親を捨てて男と出ていった理容師の母・巻子を見返すため、理容専門学校を卒業した。だが、キリはカットの技術がイマイチ。かつては母も修業していたという理容店「バーバーチー」で修業することになるが、店主・千恵子に命じられるのは雑用ばかり。このままでは、理容師になって、人気店を開き、巻子を見返すという夢を叶えられない。焦りを感じたキリは千恵子のお客さんに「カットをさせてほしい」と頼み込むのだが…。キリは夢を叶えることができるのか。母・巻子と和解することはできるのか。床屋さん業界に理容女子が革命を起こしていく。

 理容師の国家試験でもカットの点数がギリギリだったキリ。カットが下手なのに「人気店を開きたい」と空回りをしている彼女は、個性豊かで人情味溢れる人たちとの出会いのなかで成長していく。カット技術のコンテストに出場した出場者全員の店を訪れ、その技術の違いを見学したり、練習のため、街の人たちをどんどん角刈りにしていったり、しまいには、母・巻子の店を訪れ、その技術を体験したり…。周りの人を巻き込みながら成長していくキリの姿を応援せずにはいられなくなる。

 理容師と美容師の違いは、顔剃りができるか否か。理容師は、美容師と異なり、客に対して、髪のカットだけでなく顔剃りも行うことができる。キリは、カット技術はイマイチが、顔剃りの技術は巧み。顔剃りを行った客をその気持ち良さから眠らせてしまうほどだ。この武器を生かすことはできるのか。キリは女性にも顔剃りを体験してほしいと策を巡らせていく。

 キリの理容師としての成長とともに気になるのは、恋模様だ。母親が出ていった過去があるせいか、結婚には興味がないというキリ。だが、父親と暮らす家には、幼馴染の淳平が毎日のように訪ねてくるし、理容学校の同級生で素晴らしいカット技術を持つアタルの存在も気になり始める。キリの恋はどうなっていくのか。思いもよらない展開が待ち受けている。

 大切なのは、自分自身と向き合うこと。お客さんの要望を聞き、それ以上のものを叶えること。理容師はこんなにいろんなことに気を配りながら、仕事をしていたのか。

 いろんな人と出会い、関わり合いながら、前へ前へと進んでいくキリの力強い姿になんだか勇気づけられる気がする。力強くもあたたかいこのお仕事小説は、あなたのビタミンになるだろう。

文=アサトーミナミ