人を狂わすと書いて「推し」。金銭感覚の狂ったガチャ課金沼の一大叙事詩…

エンタメ

2018/5/26

『カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~』(幻冬舎)

『クレムリン』や『やわらかい。課長 起田総司』など漫画業に加えて、『負ける技術』や『ブスの本懐』といった執筆業でも人気を集めるカレー沢薫の最新作『カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~』(幻冬舎)。

 本書は、前半(愛の巻)が「TOFUFU」、後半(金の巻)が「幻冬舎plus」で連載されていたものを一冊にまとめたものである。「TOFUFU」では「カレー沢薫のカレーなる夫婦生活」というタイトルの、夫婦をテーマにしたコラムであり、「幻冬舎plus」では「オタク沼地獄」というタイトルの、普段のオタク生活をテーマにしたコラムである。

 夫婦とオタクという別々のテーマであるが、同時期に書かれたということもあり内容に若干のかぶりがある部分もある。具体的には、「刀剣乱舞(PC版ブラウザゲーム)のへし切長谷部」と「FGO(「Fate/Grand Order」というスマートフォン専用RPG)の土方歳三」という二人のキャラクターについてしか描かれていない。

 そもそも、夫婦生活について描くはずの「TOFUFU」連載、第一回のタイトルが「他人との結婚話がおもしろいわけがない」である。次のタイトルが「二次元の男との結婚生活を妄想してみた」。リアル夫の入ってくる余地がないのだ。

 文章はもちろん変わらずキレッキレで、ずっとニヤニヤしながら読むことになるので、外で読書するには向いていない本かもしれない。特に、FGOの土方さんをガチャで出した回については、ネットで連載していたときに読んだのだが、お腹を抱えて笑ってしまった。笑い通したあとに、もはやその文章力にちょっと感動してしまうほどだった。課金も、ここまで突き抜けてやってしまうと、何やら悟りのような境地にいってしまうのかもしれない。平気(ではないんだろうけど)で5万や10万を溶かしていく著者に、気がつくと読んでいるこちらも金銭感覚が狂ってくるようだ。

 また、二次元についての熱量とリアル夫婦生活に対するそれとのギャップもすごい。同僚の紹介で知り合った男性と5年後に結婚。共働きゆえに家事は分担だが、カレー沢先生は料理以外一切やらないという。「これから結婚する方は、配偶者というのは、やってあげるとそれが当たり前だと思うし、文句をちゃんと言わないと際限なく増長するものだと思った方がいい」という開き直りは、ある種うまくいく夫婦生活のヒントが隠されているような気がしなくもない。

「沼」というテーマでまとめられたこの一冊は、ある人から見れば非常にドライとも思えるリアル夫婦生活のもとで、心ゆくまでオタク生活を楽しむカレー沢先生の姿を見ることができる。しかし、著者は、そんな夫婦生活があるからこそこうやってゲームやアニメを存分に楽しむことができるのだ、とも言っている。

 基本的には長谷部と土方の話しかしていないが、前半のリアル夫婦生活について描かれている部分をよく読んでみると、オタク趣味をもった人間がどういう相手を選んだら(もしくはどういう心持ちで対すればいいか)わかる一冊でもある。夫に対する態度のブレなさもいいし、時折それでも仲が良さそうなシーンが垣間見えるとキュンとくる。ちなみにそういう意味では、私は愛の巻の「推しの死に備え続けるのがオタクの人生」が大好きで、何度も読んだ。普段のカレー沢節好きはもちろん、そこに「夫」という存在が入ったときに現れる化学反応的な面白さも魅力のコラム集だ。

文=園田菜々