私たちの食卓を支える米軍の最新技術。現代食の見方が変わる1冊

暮らし

2018/6/2

『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』(アナスタシア・マークス・デ・サルセド:著、田沢恭子:訳/白揚社)

 午前中の仕事が長引いて、ランチを食べ損ねてしまった…。そんな時、いわゆる“エナジーバー”(カロリーメイトやソイジョイ、1本満足バーなど)のお世話になった人は多いだろう。空腹を素早く満たしてくれ、栄養補給もバッチリ。手が汚れることもなく、いろんなフレーバーがあり、おいしい。デスクの引き出しやバッグの中にしばらく転がっていても、長期保存できるので安心だ。

 そんなエナジーバーなどの加工食品は、私たちの生活に身近なものだ。しかしその加工食品の背後に、アメリカ陸軍の研究開発の歴史があることを感じながら食べている人は少ないだろう。『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』(アナスタシア・マークス・デ・サルセド:著、田沢恭子:訳/白揚社)は、アメリカ陸軍の研究開発内容が民間の食品会社の製品に活用され、現代の食生活に深く入り込んでいることが、膨大な文献調査や取材を経て書かれた1冊だ。ここで「私は健康のために、加工食品を使わず、自分で材料をイチから揃えて料理している。だから関係ないな」と思った人もいるかもしれないが、ぜひ手に取ってみてほしい。なぜならあなたも無関係ではないからだ。

■陸軍管轄研究所の、食事に関わる研究と開発

 兵士が戦地で食べるものをレーション(糧食)という。このレーションの研究開発が急速に進んだのが、第二次世界大戦後だ。アメリカは、第二次世界大戦の教訓である「十分な備え」のために、さまざまな軍事研究を拡大させたが、そのうちのひとつがレーションに関するものだ。その研究を担ったのが、「ネイティック研究所」という、陸軍管轄の研究所だ。戦場でのレーション配給に関わるあらゆる内容がこのネイティック研究所で行われ、そこで研究開発された技術は、のちに民間企業との協力により、さまざまな加工食品となって登場した。その製品をざっと紹介しよう。

・エナジーバー
・フリーズドライコーヒー
・プロセスチーズ
・成形肉
・乾燥チーズと、それでコーティングされたスナック菓子

 これらを冷蔵庫やキッチンに常備している人は多いだろう。保存がきくし、何といっても手軽に食べられるものばかりだ。

 また、研究されたのは食品だけではない。食品の調理や保存、そして輸送を安定させるための技術も、私たちの食生活に大きな影響をもたらしている。その一例がこちらだ。

・レトルト包装
・ラップ
・電子レンジ
・コンテナ輸送 (正確には、コンテナ輸送の普及の後押し)

 普段の食事に加工食品を使わないとしても、ラップや電子レンジと無縁の人は少ないだろう。

 そして、食品の安全管理についても研究が進められた。そこで生まれたHACCP(ハサップ/危害要因分析重要管理点)は、食品加工の工程で起きうる汚染リスクを減らすための管理システムだ。これは現在、アメリカの全ての食品工場で義務付けられているとともに、国際的な食品安全管理システムとしても認められ、日本でも広く運用されている。

■何を選び何を食べるかは、あなた次第

 本書では、加工食品の歴史や、研究開発にまつわるエピソードが、豊富なデータやユーモアと共に、盛りだくさんに描かれており、誰もが興味を持つ内容となっている。読後にスーパーへ行けば、「あれもこれも、アメリカ軍ゆかりのものがたくさんある!」と、新しい発見があるはずだ。

 一方で、加工食品に対する見方も変わるだろう。もともと戦場の兵士のために作られた、添加物たっぷりのものを食べ続け、将来の健康に影響は出ないかが気になる人もいるだろうし、忙しい生活の時短アイテムとして、さほど抵抗なく取り入れる人もいるだろう。大切なのは、自分が食べようとしているものの素性は何かをきちんと把握し、自分の生活に合ったものを選び取ることだ。

 食べることは生きていく上で欠かせないだけではなく、日々の楽しみでもある。本書を読むことで、自分が口にするものをきちんと選び取るスキルが磨かれ、あなたの生活はより豊かなものになるだろう。

文=水野さちえ