ある日、突然バズッた! 可愛いだけじゃない「赤ちゃん本部長」の魅力に注目

マンガ

更新日:2018/6/4

『赤ちゃん本部長』(竹内佐千子/講談社)

 最近「バズる」という言葉をよく耳にする。これはインターネット上で、SNSなどを通じて話題となることを指すらしい。一般に浸透しているのかどうかは人によって見解が異なるだろうが、テレビCMで使われるくらいには知名度があるようだ。そのCMというのは、webサイト「ベビモフ」の告知である。編集長が「ある日、突然バズッたんですよね」と語るのは、そのサイトに掲載されている連載漫画のこと。『赤ちゃん本部長』(竹内佐千子/講談社)というタイトルであり、このたび単行本が発売された。

 物語は、武田本部長(47歳)が「朝起きたら、赤ん坊になっていたのだ」というシーンから始まる。原因その他は一切語られず、そのままストーリーは進行していく。幸い赤ん坊になったのは身体だけで、記憶などはそのままという。「見た目は子供、頭脳は大人」とかいうフレーズはよく知られるが、こちらはさしずめ「見た目はベビー、頭脳は大人」というところか。武田本部長は会社の営業部を束ねる重要な人物だが、中身はそのままといえど赤ん坊の状態では行動すらままならない。そこで必要となってくるのが坂井部長(40歳)、天野課長(35歳)、西浦(28歳)たち直属の部下によるサポートである。小さな子供のいる西浦が主に本部長の世話を担当し、坂井と天野がスケジュール管理や必要な品々を調達することに。こうして赤ちゃん本部長と部下たちによる奮闘劇の幕が開くのだ。

 本作で一番のポイントとなるのは、やはり「ギャップ」であろうか。本来47歳の本部長が生後8ヶ月程度の赤ん坊になったことで、さまざまな障害が発生する。自力で歩行できないため歩行器を使うのだが、その姿が非常に愛らしいのである。そして普段と変わらず仕事をしようにも、周囲が対応できない場合があったり、身体が赤ん坊のためすぐに眠ってしまったり、何かと大変なのだ。そういった本部長のやる気と、それについていけない身体という状況から生まれるギャップが愛らしさとなり、本作は「バズッた」のではないだろうか。

advertisement

 もちろん可愛いだけが本部長の持ち味ではない。多くの部下を束ねる彼は仕事熱心であると同時に、かなりの人格者として描かれている。取引先の「赤ん坊は母親のもの」という発言に対し「赤ん坊は一人の人間です。誰のものでもない」と真っ向反論したり、悩む部下に対して「迷惑はかけていいんだ」と誰かを頼るよう助言したりする。こういう人物だからこそ、部下たちは献身的に本部長をサポートするのだ。そして本部長の愉快な日常に隠れがちだが、周囲の人間たちにもさまざまな人間模様がある。本部長の世話役・西浦は家庭があるが実は「同性婚」であったり、本部長の娘が「自分の遺伝子は残したくない」と言い放ったりと、今後に深く関わってきそうな設定が盛りだくさんなのだ。こうした複雑な人間ドラマの部分も、本作が支持される理由といえそうだ。

 このように『赤ちゃん本部長』にはたくさんの魅力があり、それが正しく評価されたからこそ「バズッた」のである。本作のようにネット発で話題となる作品は数多く、SNSなどのおかげで誰にでもチャンスがある時代だともいえる。気軽に投稿した作品がイキナリ「バズる」可能性もあるので、少しでも意欲のある人はチャレンジしてみてはどうだろうか。

文=木谷誠