今日から使えるテクニック満載! 「イメージ・コンサルタント」を描いたお仕事ミステリーの新機軸

文芸・カルチャー

2018/6/5

『イメコン』(遠藤彩見/東京創元社)

 エンタメ文芸の一ジャンルとして、今やすっかり定着した観のあるお仕事小説。高い人気を誇るこのジャンルに、また新たな作品が誕生した。ミステリーの名門、創元推理文庫より5月31日に発売された『イメコン』(遠藤彩見/東京創元社)がそれだ。

 学校給食の舞台裏をリアルに描いてブレイクした「給食のおにいさん」シリーズの著者・遠藤彩見さんが今回題材に選んだのは、華やかなイメージ・コンサルタントの世界。

 イメージ・コンサルタントといえば、クライアントの服装やメイク、立ち居ふるまいを総合的にチェックし、イメージアップの手助けをする職業。この小説に登場するイメコン、一色一磨(いっしきかずま)は30代独身のイケメンで、世界を股にかけて活躍するその道のプロ。そんな一磨が、東京近郊のありふれた地方都市・S市に現れたことで物語は動き出す。

 本書は4つの短編からなる連作ミステリー。S市長のコンサルタントを引き受けることになった一色が、次々と巻きおこる“日常の謎”を、イメコンならではの知識を用いて解決してゆく、というのが基本的なパターンだ。

 冒頭の作品「キラースマイル」では、市役所内のカフェに勤務する女性・梢水穂への悪質ないやがらせが描かれる。いやがらせの現場に居合わせた男子高校生・武川直央は、犯人扱いされていたところを初対面の一色に救われ、ともに事件解決に乗り出した。

 一色は梢の放つ「感じ悪さ」がトラブルを引き起こしていると指摘。梢の美貌としぐさは、周囲に圧迫感を与えていたのだ。一色は梢に、あごの角度に気をつけること、笑顔は「0・4・8」の3パターンを使い分けることなどのアドバイスを与える。自信を失っていた梢が、みるみる本来の輝きを取り戻してゆく展開は、まるでシンデレラ・ストーリーを読んでいるよう。お仕事小説の醍醐味である、プロのすごさを堪能できる。本書には他にも今日から試してみたくなる、イメージ・コンサルタントの技術がてんこ盛り。実用書としても“使える”一冊になっている。

 本書のもうひとつのポイントがミステリー要素だ。「キラースマイル」ではいやがらせを行っていた人物とその動機が、一色によって鮮やかに明かされる。人の心の動きに精通したイメコンは、名探偵の資格も十分。古いアパートで起こった怪事件(第2話「色メガネ」)、東京青山のビル内に置き忘れられた高価なパンプス(第3話「デスボイス」)、文化博物館でのトラブル(第4話「うぬぼれ鏡」)と、いずれもひねりの効いた展開で、お仕事小説とミステリーが融合した作品に仕上がっている。

 主人公の直央は高校デビューに失敗し、人間関係に絶望している引きこもりの少年だ。そんな直央が一色と出会い、イメコンの世界を目の当たりにしたことでどう変化していくか。そこも大きな読みどころである。本書曰く、イメコンとは「扉を開ける鍵」だ。直央は自ら閉ざしかけていた扉を、再び開くことができるだろうか。

 新年度がスタートして早数か月、職場や学校での人間関係にくたびれたり、臆病になったりしている人もいることだろう。『イメコン』はそんな人にこそ読んでもらいたい小説だ。人生は工夫次第できっと変えられる。そう思わせてくれる本書には、面白さと滋養が詰まっている。直央とともに、めくるめくイメコンの奇跡を目撃してほしい。

文=朝宮運河