「粘り強くてしぶとい」イメージのある雑草、でも実はとても弱い植物だった!?

ライフスタイル

2018/6/10

『雑草はなぜそこに生えているのか(ちくまプリマー新書)』(稲垣栄洋/筑摩書房)

 抜いても、抜いても執拗なまでに生えてくる雑草との終わりなき闘いに頭を悩ませている人も少なくないのではなかろうか。雑草は、あらゆる隙を狙って芽を出し、あっという間に茎を伸ばして大きな葉を広げる。そして、簡単に引き抜くことができないほど強い根を広げてしまうこともあるのだ。これだけ、科学が進歩しているにもかかわらず、なぜ、人間は草むしりという地道な作業を黙々と繰り返さざるを得ないのか。雑草との闘いにケリを付けたいと考えているなら、まず敵を知ることが大切だ。

『雑草はなぜそこに生えているのか(ちくまプリマー新書)』(稲垣栄洋/筑摩書房)はその名のとおり雑草について書かれた本だ。身近な存在でありながらもスポットライトが当たりにくい雑草の性質や特徴について詳しく解説されている。

 専門書のような難解な内容を想像する人もいるかもしれない。しかし、本書は中高生向けに著された本でとても読みやすい。そして、子供向けとはいえ大人でも知ることのないような意外な雑草の姿が次々と明かされている。さらに、雑草という植物についての解説書であるはずなのに、なぜか自分の生き方や人生の方向性まであらためて考えさせられるような人生の指南書にもなっているのだ。

 雑草が教える人生訓というと、どうせ「踏まれても踏まれても立ち上がる雑草のように何があっても立ち上がれ」といった根性論だろうと思うかもしれない。しかし、実は雑草は踏まれたら立ち上がらないことが通常であるという。このため、いわゆる雑草魂に見る根性論は人生訓としてはリアリティのないものであることが本書で明かされている。意外にも本来の雑草は決して強くはなく、逆に植物界で最も弱い存在であるというのだ。

 では、なぜ、そんな弱い雑草に人間は手こずらされているのか。人間が考え出した便利な薬剤、除草剤ですら、多用しているうちに抵抗性を付けたスーパー雑草を誕生させ、太刀打ちでなくなってしまうこともある。

 抜いても薬剤を使っても再び生えてくるほどの生命力の塊のような雑草が弱いとは信じがたい事実ではあるが、弱肉強食と言われる植物界の中で生き延びるために雑草は驚くべき戦略を持っているのだという。それは、弱い自分たちでも勝てる道を探り、闘わずして勝てる場所で生きることだ。たとえば、植物が育つために条件のよい環境ではなく、ほかの植物が好まないニッチな場所で生きるという戦略である。

 また、雑草は踏まれても立ち上がろうとはしない。たくましいイメージを持つ雑草が踏みにじられてヘニャリとなっている姿は情けなくも見えるかもしれない。しかし、踏まれるたびに立ち上がって無駄なエネルギーを使うことはせずに、植物の生きる目的である種子を残すことだけに力を注ぐ。さらに、雑草は人に踏まれることそのものを利用してちゃっかり増殖する秘策も持っているというのだ。ほかにも両掛け戦略やトロイの木馬作戦など驚くべき秘策は多い。

 雑草の秘密を次々と明かす著者は雑草生態学を専門に研究する農学博士。大学院修了後、農林水産省に官僚として採用されるも現場に近いところで仕事がしたいという思いから故郷の県職員に転職する。しかし、県での配属も、その後の異動で就いた研究職でも雑草とはかかわりのない担当だったという。著者はそんな人生を「みちくさを食ってばかりの人生」と語る。しかし、いろいろな道を歩んだからこそ、ただの雑草オタクではない今の自分がいるとも振り返る。

 雑草の本当の姿は競争に勝つ力もなく、ストレスに強い性質を持っているわけでもない。イメージに反して実際は弱い存在であるにもかかわらず、雑草は独自の戦略を上手に活かして傍から見るとまるで勝者のように生きている。そんな雑草の人生には、競争社会につまずいたり、ビジネスで行き詰まったりしたときに人が強く生きるためのヒントがたくさん隠されている。

 雑草の性質とともに、著者のみちくさ人生や雑草の生きる戦略を著した本書は、道に生える草花鑑賞の楽しみや庭に生え伸びる雑草の対応の在り方を知るだけではなく、競争社会の中で上手に生きる術をも指南してくれる充実した1冊だ。しつこく生える雑草への憎しみを持って読み始めたあなたも、読後には植物についての知識とともに、どことなくすがすがしい気持ちが残り、雑草に対して尊敬のまなざしすら持つようになっているかもしれない。

文=Chika Samon