かつての憧れのお兄さんか、誰よりも近しい男友達か――コールドスリープで変わった三角関係の行方は?

マンガ

更新日:2018/6/11

『君は春に目を醒ます』(縞 あさと/白泉社)

 憧れのお兄さんと同級生になったら……なんて夢想が現実化したとしたら。『君は春に目を醒ます』(縞 あさと/白泉社)は、不治の病を克服するため、特効薬が開発されるまでの7年間コールドスリープし続けた少年・千遥(ちはる)と、彼の目覚めを待ち続けた7歳年下の少女・絃(いと)が、高校2年の春、同級生としてふたたび出会う物語。「このマンガがすごい!WEB」の2018年1月ランキングでオンナ編1位を獲得した話題の作品である。

 正々堂々と恋ができるクラスメートとなったのに、千遥は絃を“妹”としか見てくれない。一世一代の告白もナチュラルにスルー。だが、無理もない。千遥にとって10歳の絃と過ごした日々は、ほんの数か月前のできごとなのだから。

 7年のあいだに、同級生は担任教師となり、元彼女は結婚して子供を産んだ。田んぼばかりだった街には大きなショッピングモールができた。自分だけ静止していた空白の時を、現実として受け入れることはできても、千遥の心は追いつかないのだ。自分はどこに立っているのか。よるべのない葛藤を抱える彼には、“かわいい絃”がそばにいてくれることだけが救い。それを知ってしまったからこそ、絃も関係を壊す一歩が踏み出せない。あの頃と同じように絃をかまい、手をつなぎ甘やかす彼の近さに、どんどん気持ちは育っていく一方なのに。

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 なんとも切ない足踏みを続けるふたり。だがまあ、そもそも7年前から近所の子供相手にちょっとかまいすぎてやいませんか、な千遥なので、唯一の心のよりどころたる絃が恋愛対象になるのは時間の問題。それよりも注目すべきは、絃の幼なじみ・弥太郎である。

 小学生のころ、好きな子をいじめるというわかりやすい不器用さで絃を泣かせていた弥太郎だが、今やすっかり絃の気の置けない男友達。皮肉なことに、千遥からの自立によって絃は美しく強くなり、弥太郎との距離を縮めていた。2巻で初登場した弥太郎の友人・雨村くんが言うとおり、同級生という絶妙なタイミングで千遥が目覚めたりしなければ、遅かれ早かれつきあっていてもおかしくなかったほどに。

 だが、千遥は目覚めた。絃の恋心も蘇ってしまった。それも、以前より確かなものとなって。邪魔したい。でも千遥が目覚めてから笑うことが増えた絃の幸せを壊したくはない。それに弥太郎を友達として扱いはじめた彼を、むげにはできないどころか、千遥のことを知れば知るほど、キライになれなくなっている自分がいる。とにかくお人好しで純情ないい男なのだ、弥太郎は。正直言って、彼にいちばん報われてほしい。絃の千遥への気持ちが変わらないのだとしても、なんらかの形で、報われる日が来てほしいと願わずにはおれない。正直、揺らぐ弥太郎の恋心だけでも、本作は読むにあたいする作品である。

 ちょっぴり歪んだ愛情を弥太郎にそそぐ雨村くんにも注目しつつ、三角関係の行方を見守っていきたい。

文=立花もも