目玉焼きが上手に焼ければ、たいていの料理は上手くいく!? 身近な料理を美味しくする一工夫を学べるクッキング小説【目玉焼き編】

文芸・カルチャー

公開日:2018/6/16

『星ヶ丘高校料理部 偏差値68の目玉焼き』(樋口直哉/講談社)

 卵料理は料理の基本であり、芸術であり、高尚な科学である。黄身の色みを美しく仕上げるにはどうしたら良いのだろう。白身と黄身はそれぞれ何℃で固まり始めるのだろう。カンタンな料理に思えても、気を配ることはたくさんある。「目玉焼きが上手に焼ければ、たいていの料理は上手につくれるんだ」。そんな言葉をモットーに料理を学ぶ高校生を描いたクッキング小説がある。

 樋口直哉氏著『星ヶ丘高校料理部 偏差値68の目玉焼き』(講談社)は、読むだけで料理が上手になるメソッドが学べるお料理ミステリ小説。作者の樋口直哉氏はフレンチの料理人としても知られる人物。本作では、高校生たちの日常をいきいきと感じながら、気軽に、身近な料理をとびきり美味しくする方法を学ぶことができる。目玉焼き、オムレツ、ハンバーグ、カレーライス…。この本を読むと、思わず、部員たちを真似て、普段の料理に一工夫加えてみたくなることだろう。

 舞台は、部員不足で廃部寸前の私立星ヶ丘高校 料理部。ある日、篠原皐月は、料理部顧問の理科教師・沢木先生に憧れているという友人の藤野和音に誘われ、この部に入部することになる。いつも眠たげな謎多きイケメン部長・内海のプロ顔負けのたくみな料理のテクニック。理科教師ならではの、沢木先生のお料理ウンチク。今までほとんど料理をせず、決して料理が上手いとはいえない篠原と藤野だが、次第に、料理をすることの楽しさにハマっていく。さらに不慣れな料理と格闘しているうちに身の回りの事件まで美味しく解決していて…。

advertisement

 はじめて私立星ヶ丘高校 料理部を訪れた篠原と藤野に「目玉焼き」を作るという入部テストが課される。しかし、元々あまり料理をしたことがない篠原はカンタンな料理であるはずの目玉焼きも焼けず、焦がしてしまう。一方で、お手本として内海部長が目玉焼きを焼くと、美しく、かつ、美味しい一品ができあがる。

「バターが溶けて泡立ってきたら、卵を入れてもいい温度というサイン。上手にできるようになったらサラダ油でもいいけど」
「卵は低い位置から静かに落とす。弱火で5分。黄身の色をそこないたくないから蓋はしない。同じ理由で水も入れない」
「塩で味付けをする。このとき、黄身には振らないこと。塩を振ると黄身に白い斑点ができてしまうから」

 できあがった目玉焼きは、滑らかな白身が黄身を優しく包み込む。本を読んでいるだけで、おなかがすいてくる。カンタンに思える料理でも、ひとつひとつを気をつけていくだけで出来栄えは見違えるように変わるのだ。こんなに料理は奥深いものなのか。こんな目玉焼きを自分も作ってみたい。入部したての篠原たちのように、私たちも思わずそんな気分にさせられる。

 沢木先生によれば、目玉焼きには熱を加える料理のイロハが詰まっているのだという。焼き料理が上手くなるためには、まず食材の性質を知らなくてはならない。卵の場合は、白身のタンパク質であるトランスフェリンは58℃、アルブミンは80℃で完全に凝固し、黄身は65℃から70℃で固まるから、目玉焼きではこの温度帯で火を通す温度調節が大切。この温度調節が学べれば、卵を焼くのも、肉を焼くのも、魚を焼くのも一緒。目玉焼きが焼ければクレープやお好み焼きだって上手に焼けるはずだ。

 この本を読んでいると、篠原たちとともに、内海部長の料理テクニックや沢木先生の知識に惹かれて、料理がしたくなる。やはり大切なのは基本。この本とともに基本の料理からしっかりおさえて、とびきり美味しい料理を作ってみたい。


文=アサトーミナミ