注目の新レーベル・メゾン文庫の創刊第1弾!「介護」というテーマの先に浮かび上がる明るさ、やさしさとは?

文芸・カルチャー

2018/6/13

『新卒ですが、介護の相談うけたまわります』(著:いぬじゅん、イラスト:uki/一迅社)

 いま、小説の中でもっとも熱いジャンルと呼ばれるキャラ文芸。多くの人気レーベルがしのぎを削る群雄割拠のこの分野に、6月9日より新たなレーベル〈メゾン文庫〉が誕生する。

 恋愛、結婚、バディもの、食、あやかし、旅行など、現代を生きる女性の「好き」を共通テーマにして人気作家の書き下ろし新作や話題のWEB小説を書籍化。新人賞も同時開催する予定で、キャラ文芸ジャンルの起爆剤となりそうだ。

 創刊第1弾の『新卒ですが、介護の相談うけたまわります』は、タイトルが表すようにテーマはずばり、介護。

 舞台は、広大な敷地面積をもつ福祉施設・花の郷会。主人公は、子どもの頃からの夢だった介護職に就くことになった新卒女子の小飼里枝。しかし彼女が配属されたのは、施設内のお荷物部署と揶揄されている〈介護保険外相談所クルクマ〉だった。そこの構成員は、手作りクッキーが自慢のベテラン事務員せつ子ちゃんと、不愛想な美形メガネ男子にして所長の早馬海吾。さまざまな人がクルクマを訪れ、介護にまつわる悩みや問題、心配ごとを打ち明ける……。

 主な相談例はこんなものだ。介護職に就きたい娘と、それに猛反対する母親の葛藤(第一話「介護のお仕事」)。市の区画整理の対象となった土地で、ある老女が一人暮らしを続ける理由(第二話「恋する紫式部」)。窃盗を巡って、ホームヘルパーと利用者の信頼関係がゆらぐ事件(第三話「いちばん近い他人」)。天涯孤独の老女の生き別れになった息子を捜すという依頼(第四話「あなたの名前」)。

 介護を中心軸にして、介護する側、される側、その周囲の人びとが織り成すドラマはリアリティがありつつも、新米相談員・里枝の目を通して描かれているので、どこか軽みがあってコミカルだ。あり余るほどのやる気がときに噴火してしまう里枝と、皮肉屋だけど観察力が鋭く冷静沈着な海吾のコンビプレイもなんとも楽しく、微笑ましい。

 介護職への偏見や独居老人の現状、老いにまつわる症状など、どの回も突き詰めると内容はヘヴィであり、深刻な展開にしようとするならいくらでもできたはず。

 だけど作者の筆はあくまでも明るく、やさしい。

 いぬじゅん氏は長年に亘って福祉の仕事に携わっていて、本作には自身の積み重ねてきた知識と経験、多くの人との出会いと別れから得たものを注ぎ込んだと語っている。中盤から出てくる介護職の離職率の高さにまつわるエピソードには、現在の福祉システムの問題点が現場視点で綴られていて興味深い。

 作中で海吾は里枝に語る。

「解決を求めていたとしても、誰かに同じ悩みを聞いてもらえただけで報われることもあるんだ」

 そう。完璧な解決などというものは、現実にはそうそうあり得ない。だから私たちは悩みを聞きあい、話しあい、助けあうことでまた自分の心も報われる。

 介護という行為のもつ本質的な意味合いを、キャラ文芸という形で描いた画期的な作品だ。

文=皆川ちか