男の見栄と弱音が凝縮。情けなくも愛すべき男たちの孤独物語

文芸・カルチャー

2018/6/19

『選んだ孤独はよい孤独』(山内マリコ/河出書房新社)

 女には女の孤独があるように、男には男の孤独がある。『選んだ孤独はよい孤独』(山内マリコ/河出書房新社)は全19の短編集で、男性が人生の中で感じるさまざまな孤独が詰め込まれている。

「男ってなんで、こんなにも情けなくて愛おしいんだろう」――そう感じさせてくれる本書は、男女の価値観のズレや男性が普段見せない心の弱さが楽しめて、おもしろい。

■彼女ができたばかりの男子高校生が抱える“孤独”

 収録作品のひとつである「女の子怖い」には、男子高校生ならではの弱さと繊細さが描かれている。

“同じクラスでいつもつるんでる伊藤と大西も、高校時代に彼女の一人もいなかったなんて汚点を残すのはマズイと言い出して、それもそうだなぁと思い込んでしまったわけだ。”

“輪からはみ出さないためにまわりの空気に釣られて、渋々ながら重たい腰をあげるのだ。そこに自分の意志なんてごたいそうなものはないのだ。”

 主人公・加瀬の心にある、こうした見栄と倦怠感の混ざった気持ちは思春期に誰もが一度は感じた感情であるだろう。そして、加瀬は言葉通り、周りに流されながら同級生の内山花音という女子と付き合うことになった。しかし、日課になっていく長時間のLINEのやり取りや毎週末のデート、自分ばかりに負担がかかる自転車の二人乗りといった恋人らしい日常を重荷に感じるようになり、それを強いる女性への恐怖心を募らせていく。

 自己承認欲が強い花音が加瀬に求める恋人らしい日常の中には、少々行き過ぎているものもあるが、大半は世の中の女性が彼氏にしてほしいと思っていることである。けれど、そうした女性の理想で男性が傷つけられてしまうことも少なくないのだ。そして、そんな傷を抱えていても弱音や愚痴をグっとこらえ、強がってしまうのが男性の悲しい性だろう。

 それは、セックスのときでもそうだ。本書内に記されている、加瀬が花音にセックスを無理強いされたときの台詞には、男の悲しい性が溢れている。

“したくないのかと訊かれて、僕は正直に「したくないよ。怖いからもう帰らせて」とは言えなかった。ほら一応、男の沽券的なやつで。”

 男性には、どんなときでも強くありたいという見栄や、本心を悟られたくないという弱さがある。そうした男の性は女性からしてみれば、不器用でかっこ悪く見えるが、同時にどうしようもなく愛しくも思えてしまうのだ。

■大勢の人間がいる職場でサラリーマンが感じる“孤独”

「女は気楽でいいよな」世の女性をイラっとさせてしまうこの一言にも、実は男性ならではの孤独が詰まっているのかもしれない。「ぼくは仕事ができない」という短編では、周囲が語る人物像やエピソードによって、広告代理店の男性社員・角岡の人物像が浮き彫りになっていく。

 ここでおもしろいのは、角岡に対するイメージが男女で180度違う点だ。例えば、同性の新人社員や上司は角岡のことを「仕事ができ、出世も間違いない人材」だと思っている。しかし、周りの女性たちは角岡が実は仕事のできない人間で、見た目とハッタリだけで今の地位を築き上げていることを見抜いている。では肝心の角岡自身は、自らのことをどう思っているのだろうか。作中には一切、角岡が語る本人の心情は記されていないが、きっと彼は「ライバルとなる男性社員には仕事ができないことを悟られたくない…」とでも思っているだろう。世の男性は角岡のように職場でも、見栄と弱さを抱えながら必死にもがいているのだ。

 近年共働きが主流になり、男女が平等に働けるような環境作りが行われつつあるが、女性と同じように、結婚を機に仕事を辞める男性はそういない。男性は人生のほとんどを仕事に費やしているのだ。そのため、独身でも既婚でも生涯、人生に仕事が付きまとってくる。

 だからこそ、見栄や弱さが心に生まれ、孤独が生み出されていく。「女は気楽でいいよな」の一言はもしかしたら、男性ならではのSOSであるのかもしれない。

 男性の抱える孤独には、女性には分からない気持ちが込められている。しかし、分からないからこそ、「理解したい」「愛しい」とも思える。男のリアルが詰まった19の物語は人生の正解を求めてもがいている男性や、男性を理想化しすぎている女性の胸に突き刺さることだろう。

文=古川諭香