東京地検特捜部が現代の日本社会に蝕む“悪”と対峙! 伊兼源太郎の最新検察ミステリー『巨悪』

文芸・カルチャー

2018/6/22

『巨悪』(伊兼源太郎/講談社)

 今年2月に刊行された『地検のS』では地方検察庁を舞台に正義のあり方を問うたミステリー作家・伊兼源太郎。この前作に続いて6月に刊行された最新刊『巨悪』(講談社)もまた検察が題材になっている。今度は東京地検特捜部が、タイトルの通り現代の日本社会に巣食う“巨悪”の存在に迫る骨太で重厚な検察ミステリーだ。

 地検特捜部は、一般の捜査では核心に迫れないような政財界を巻き込む不正や汚職、脱税といった大型経済事件を専門に捜査を担う、いわば“検察庁の精鋭部隊”。ロッキード事件やリクルート事件、東京佐川急便事件など世間を騒がせた大事件を手がけてきたことで、“最強の捜査機関”とも呼ばれていたが、昨今は証拠の改竄や杜撰な取り調べなどの不祥事が明るみに出たことで、その権威は地に落ち、特捜解体論が取り沙汰されることまである。それでも、森友学園問題、リニア談合、神戸製鋼製品データ改竄問題など、東京地検特捜部、大阪地検特捜部が手がける事案は今も大きく報道されている。

 物語の主人公となるのは、そんな東京地検特捜部の特捜検事・中澤源吾と機動捜査班に所属する検察事務官・城島毅。彼らは高校時代の同級生で、野球部のダブルエースとして活躍した仲。ふたりはある悲惨な事件とその納得のいかない終結をきっかけに“検察”の道を選んだ過去があった。

 中澤は東京地検特捜部に封書で送られてきた匿名の告発に基づき、大手運送会社ワシダ運輸社長の脱税疑惑の捜査を担当。城島もまた容疑を固めるために資料の分析を進めていた。もろもろの捜査と聴取の結果、脱税疑惑は起訴に相当するほどの根拠は見つからなかったが、上層部は社長を逮捕して強引に口を割らせてでも起訴に持ち込めと中澤に指示。しかし、中澤は自らの心証と現況をありのままに捜査報告書としてまとめ、実質的にそれを拒否する。特捜部長の鎌杉は「我々に撤退は許されん。特捜部は絶対的存在だ」「特捜の正義とは勝利だ」と中澤に宣告したうえで捜査は中断。中澤は特捜検事として“敗者”のレッテルを貼られた形になってしまう。

 そんな中澤が次に担当することになったのは、議員歴30年のベテラン参院議員が地元で自身の似顔絵が入った手ぬぐいを配布したという事案。厳密に解釈すれば公職選挙法が禁止する寄付行為にあたるが、立件するほどの違法性はない。しかし、捜査を進めるうちに事件は思いもよらぬ方向へと転がっていく。いつしか、“政治の闇”へと切り込んでいくことになった中澤と城島。それは、中澤と城島が検察の道を志したきっかけにもなった事件にもつながるものだった。その果てにある、現代の巨悪の正体とは!?

 本作でも言及されているが、そもそも検察という組織は取材すること自体が非常に難しいという。そのため、フィクションでも地検特捜部を題材にした作品の数は決して多くない。そんな中、本作で描かれる特捜部の組織機構や複雑な権力構造、捜査活動をめぐって内部で錯綜する駆け引きの様子は生々しくリアルで実に読み応えのあるものになっている。そして、そんな東京地検特捜部が対峙することになる“巨悪”の正体に多くの読者が現実を引き合わせて戦慄を覚えるだろう。本作で描かれているような巨悪を打倒するために困難な戦いに挑もうとする“正義”は、現実にあるのだろうか。その実在を願わずにはいられないが、果たして――。

文=橋富雅彦