「産め」「働け」「輝け」の三重殺。真の「女性活躍」とは?

社会

公開日:2018/6/24

『「女性活躍」に翻弄される人びと』(奥田祥子/光文社)

「女性活躍」が声高に叫ばれ続けている。「女性活躍推進法」が成立し、職場で活躍したい全ての女性たちの能力発揮のための行動計画の策定などが事業主に義務付けられた。しかし、実際の現場はどうだろう。本当に国の思惑どおりに「女性活躍」は進んでいるのだろうか。

『「女性活躍」に翻弄される人びと』(奥田祥子/光文社)は、大学教授でありジャーナリストでもある著者が、長年にわたり取材対象者ひとりひとりと丁寧に対話していく中で浮かび上がってきたリアルな声を元に、女性たちや、それを取り巻く男性たちの姿を描いたルポルタージュだ。

■「こんなはずではなかった」…迷える女性たち

 結婚、非婚、出産、離婚、シングルマザー…女性の生き方はさまざまな選択肢が存在し、男性よりもバリエーションに富む。しかし中には、やむにやまれぬ事情で望まぬ生き方を選ばざるをえない状況も存在する。

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 非正規社員として働くMさんは30歳を過ぎて未婚で子どもがいない。いわゆる“負け犬”にはなりたくなかったが、非正規ゆえに職場に定着できず、信頼できる人間関係の構築が困難で出会いもない。

「非正規であるせいでいい出会いがない」

 今や結婚相手を探す男性たちは、妻となる女性たちにも経済力を求める傾向が強くなっているのだという。

 女磨きと綿密な計画で「勝ち組」の専業主婦の座を手に入れたRさんは、ふたりの子どもがいて女優のような華やかないでたち。夫の不倫、自らの不貞…望んで手に入れたポジションなのに、自分で仕事をして認められるという選択肢をとらずに家庭を守ってきた自分に対する夫の裏切りへの憤りと、アイデンティティの喪失に悩んでいる。

■女性登用に足をすくわれる男性たち

 男性中心社会から女性活躍社会への移行時期の現在、それを推し進めているのは男性が中心だ。

 50代前半のAさんは、会社が掲げた女性登用の数値目標達成のために女性正社員たちに課長職昇進の打診をするが返ってくる答えはことごとく“ノー”。「仕事と家庭の両立に自信がない」という女性たちを説得できず、目標未達で社内の評判がガタ落ちになってしまった。

 同期に出世で後れをとったOさんは必ず次は、と自身の昇進を確信していた。しかし実際は後輩女性にその座を奪われてしまう。彼自身は、社内の女性登用推進の流れによる過剰な女性優遇で、男女の“逆差別”だとの認識だ。

 著者はこう考える。

そもそも、性別を問わず、個々の人の生き方について社会が「こうあるべき」と縛ることなどあってはならないのだ。そうした鎖を断ち切り、男女がともに、また社会全体として、女性たちが抱える「平等」と「差異」のジレンマを乗り越えていくことが、非常に重要なのである。

“女性登用”の形だけ整えてもまったく意味がない。どんな生き方を選ぼうと、それが社会に受け入れられること、それが、女性も、男性も、真に輝くことに繋がるのではなかろうか。

文=銀 璃子