I love you=愛している ではない!? あなたの知らない英語の世界

暮らし

公開日:2018/6/29

『英語のこころ』(マーク・ピーターセン/集英社インターナショナル)

 言語は伝えたい欲求を言葉や文字にのせ、またその逆に、言葉を聞き文字を眺めた時の印象を心に刻む伝達ツールである。だが単に伝達にとどまらず、誰もがその場の空気や文脈、心の動きなどによりふさわしい表現へと言葉を選ぶ。本書『英語のこころ』(マーク・ピーターセン/集英社インターナショナル)は、この「ふさわしい表現」へ向けた英語と日本語それぞれの語彙がもつニュアンスの世界を解説する。英語力の向上だけでなく、言語への興味をもかきたててくれるエッセイ集だ。著者のマーク・ピーターセン氏は英語のネイティブスピーカーでありながら、日本語にも精通し、日本人に合う英語表現の指導を行う。超ロングセラー『日本人の英語』は彼の代表的著述で文法の世界を解説した。本書で彼が説く語彙の世界をいくつか紹介してみよう。

■時として気持ちの悪いI love you

 まずは愛をめぐる英語表現から。英語圏でloveは恋愛感情だけでなく家族や兄弟同士にも使われさまざまな気持ちを表現するが、日本では「I love you」を「愛している」と訳しがちだという。例えば兄が落ち込んだ弟を元気付ける場面では「お前にはおれがついている」とか、父親が娘をいたわる場面では「心から大切に思っているよ」など意訳の幅を広げたほうがよいようだ。しかしloveがloverとなれば性的関係を強調している語感があるという。くれぐれも恋人をloverなどと紹介しないよう気をつけよう。

■「○○力」など用語化は便利

 女子力、鈍感力、老人力など、日本語で「力」をつけることで用語化できることを便利な言い回しだと著者はいう。この「ユーモラスなスローガン的表現で、少しの皮肉も込められている」という用語化は英語圏にはないとのこと。便利な言い回しとしては、「-ism」をつける傾向があるという。ただし、racismは人種差別、ageismは老齢層差別など問題意識起点の用語化手法とのことだ。

advertisement

■『こころ』の翻訳にみる表現の工夫

 小説『こころ』は「Heart」とは訳さずに翻訳者は「kokoro」とそのまま残した。heartと単独で使った場合には「勇気」「剛毅な性格」「元気」などのニュアンスがあり、作品の意図にはまる言葉がなかったからだと著者は推測する。作品中の「先生」も同様に「Sensei」だ。学校の先生をTeacherと呼ぶのは小学生くらいだし、Masterと訳せば奴隷に対するご主人さまとのニュアンスがあるからだという。

 著者は2つの言語にある共通点や相違点の発見に喜びを覚えるという。「言葉は言語を問わず面白いもの」であると。心の細かな動きを相手に伝える言葉選びは気持ちのいいことなのだ。伝達力向上に関心を持ち、より大人の会話を目指してみよう。

文=八田智明