さびしいって、悪いこと?  三浦しをんが描く現代版『細雪』。独り身にとっての“理想郷”とは?

文芸・カルチャー

2018/6/26

『あの家に暮らす四人の女』(三浦しをん/中公文庫)

「○歳になってもお互い独り身だったら結婚しようぜ」なんて若者の軽口にくらべ、一定の年齢を超えた女同士でかわされる「○歳になって一人暮らしだったら同じマンションに住もう」は、そこそこみんな本気だと思う。ひとりの生活は気ままで楽しい。だけど、ふと誰かのぬくもりが生活にほしくなるときがある。かといって結婚がしたいわけではなく、適度な距離感のある女友達と、生存確認しあいながら暮らしていけたら最高だと思う。そんな最高の生活を手に入れた(ように見える)女たちを描いたのが、「織田作之助賞」を受賞した三浦しをんさんの小説『あの家に暮らす四人の女』(中公文庫)である。

 谷崎潤一郎の『細雪』を下敷きに描かれた本作。本家が血のつながった四人姉妹なのに対し、こちらは母娘+他人2人だ。古びた洋館を管理する元祖箱入り娘の母・牧田鶴代(60代後半)と、その娘で刺繍教室を営む37歳の佐知。人違いがきっかけで佐知と出会った同い年の雪乃は、美人でスタイルもいいのになぜか人の印象に残らないOL。アパートの水漏れを機に牧田家に越してきた雪乃に誘われ、やってきたのが10歳年下の彼女の後輩・多恵美。目下、ストーカー化した元カレから逃げる日々である。

 牧田家の敷地内には、管理人というか門番というか、牧田母娘を守らんとする使命感に駆られた老人・山田が住んでいるが、基本的には女4人のかしましくも穏やかな毎日が流れている。特別なことなど、なにもない。なにもないけど、なにやら賑やかで日々豊かな暮らしは読んでいてとてもうらやましい。いいなあ、私もこんな家で、こんなふうに誰かと暮らしてみたい。自分の親とだって同居できると思えないマイペースな人間さえも、そう思ってしまうある種の理想がここにある。

 もっとも、事件が起こらないわけではない。むしろ、“小さな珍事”の連続だ。多恵美の元カレは鬱陶しいし、佐知に突然舞い込んだほのかな恋にはきゅんとする。開かずの間から発掘された、とあるいわくつきの品からひもとかれる家族の歴史にはじんとするし、最後にはまさかの大事件が勃発する(え、それとそれがそこにつながるの! うそでしょ! とマジでびっくりした)。

 うつろいながら4人の心情を描写する視点がだれのものなのか、も含めて、そこかしこに読者を楽しませる仕掛けが施されていて、退屈する瞬間がひとつもない。でも日常って、案外そういうものなのかもしれないと思う。淡々と、穏やかに、何事もなく進行していくように見えて、不思議なことも事件もそこらに沢山散らばっている。それを繋げるか繋げないかは、自分次第なのである。

全部を手に入れることなんてできないもん。なにを選ぶかは、そのひと次第だよ。選んだつもりはなくても、気づいたらそれしか手のなかに残ってなかった、ってこともあるだろうし。そういう意味では、だれだってさびしい。恋人がいようといまいと、結婚してようとしてなかろうと

 誰だってさびしい。だけど、生きていればひとつくらいは、手の中に残るものはある。女同士の暮らしにだっていずれ終わりはくるかもしれないけれど、手にしたもの――思い出という抽象的なものを含めて、他者と共に生きていくことのたくましさと優しさを描いた作品である。

文=立花もも