【連載】『真夜中乙女戦争』第一章  星にも屑にもなれないと知った夜に(1)

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公開日:2018/6/27

『真夜中乙女戦争』(F/KADOKAWA)

初著書『いつか別れる。でもそれは今日ではない』が17万部を突破した「F」の待望の最新作『真夜中乙女戦争』。4月に発売されると即大重版、9.5万部を突破しています(2018年6月現在)。前作は寂しいと言えなくなったすべての大人のためのエッセイでしたが、今作は大学生の男が主人公の“恋愛小説”。ダ・ヴィンチニュースでは、第1章を3回にわたり特別掲載します。読み始めたらどんどん引き込まれていく、Fさんの世界観に浸ってみてください。

第一章
星にも屑にもなれないと知った夜に(1)

 もし大学一年生の四月の頃の自分に戻れたならば、どんな後悔を大人は語るだろう。
「もっと写真を撮っておけばよかった」「もっと日記を書いておけばよかった」「安さだけで服や家具 など 買うべきではなかった」という後悔 があれば、「好きなバンドのライブには行くべきだった」「寂しさだけで人に会いに行っておけばよかった」「もっとだめなお酒をだめに飲んでおけばよかった」という後悔もある。「体力がある内に夜更かししておけばよかった」「執念がある 内に読書 しておけばよかった」「気概がある 内に旅に出ておけばよかった」なんてありきたりな 後悔 もあれば「紳士淑女の振りなどせずあの夜セックスしておくべきだった」「一度や二度は危ない恋愛をしておくべきだった」なんてあられのない後悔まで存在するに違いない。「他人のSNSを見て苛立つ時は自分の精神の不調を断じて認めたくない時だった」し、 そうならぬよう「ちょっと行き詰まった時はケーキ、あるいはステーキを食べる、もしくは前髪を切る、部屋を掃除する等々簡易な解決法を幾つか 持っておくべきだった」。そして、きっとこれから先、これだけは変わらないだろう。「携帯 を握り締めても思い出はできない」のだ。じゃあ、どうすればよかったのか。「もっと恥を搔いておけばよかった」のか。そんなことは誰だって知っている。当たり前のことだ。

 当たり前のことは当たり前過ぎて何度だって忘れてしまう。
 臨終間際に後悔するであろうこともきっとたかが知れてる。
「残業を避けてもっと子供と過ごすべきだった」「もっと親の我儘を聴いてやるべきだった」あるいは「もっと早く癌検診に行くべきだった」が妥当な後悔か。肺、大腸、胃、膵臓、肝臓の部位順に、人間は癌で死ぬ。それでも恋だの愛だのが最後は私たちを救ってくれるのだろうか。事実、後悔まみれになりながら病院のベッドで死ぬ間際、枕元でたった一人の愛する人間に「そんなあなたも愛していた」と言われたなら、こんな人生規模の後悔から自由になれるのだろうか。いつかそんな一人と出会えるまで、たった一人で美しい振り、寂しくない振り、強い振りなどを続けて続けて、そんな自分の演技を見抜く人に出会った日にはもう甘えていいのだろうか。

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 なんと素敵で、なんとくだらない人生なんだろう。

 幸いなことに、これらの後悔と私は生涯無縁だ。もう二度と親と会うこともないし、ましてや子供を育てることもない。私が志望する会社も、私を採用するような会社も現れることはない。私と結婚してくれる人間は無論、恋愛を試みる奇特な人間が現れることもない。
 そもそも、私が好きな人間は、私なんかを好きにならない。

【(2)へ続く】