これからの時代は愛と癒しのおっぱいが主流!? ロマンあふれるおっぱいの世界を探検!

文芸・カルチャー

公開日:2018/6/29

『ゆれるおっぱい、ふくらむおっぱい 乳房の図像と記憶』(武田雅哉:編/岩波書店)

 ちぶさ、にゅうぼう、ちち、むね、おっぱい…。人類はおっぱいが好きだ。多くの男性は、おっぱいによって性的な刺激をもたらされる。また、多くの女性も、おっぱいの魅力を認識している。先天的におっぱいが嫌いな人なんて、ほとんどいないのではないだろうか。

 我々が生命力の根源として、遺伝子レベルでおっぱいを好むのは生物学的にも納得がいく。だが、生殖には直接関係のないおっぱいを、性的な発情装置や美的シンボル、文化的な概念として機能させているのは、おそらく人類くらいだ。私は、単なる授乳器官にとどまらない、概念の域にまで発展したおっぱいというものは、文明の産物であるような気がしている。人類の歴史のあるところには、必ずおっぱいの歴史がある。

『ゆれるおっぱい、ふくらむおっぱい 乳房の図像と記憶』(武田雅哉:編/岩波書店)は、そんなおっぱいの研究をまとめあげた魅惑の学術書だ。おっぱいを単に「エロいな」「美しいな」と感じるだけにとどまらず、その謎めいた魅力を奥深く探究してみたい。そうすれば、もしかするとおっぱいによりもたらされる“悦び”も、新たな領域が拓けるかもしれない。

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■「乳首を吸う」は、江戸の男のテクニック!?

 近代に入るまで、日本ではおっぱいは性の対象とされなかったという見解は多く存在する。近年話題を呼んでいる江戸時代の春画に関しても、多くの作品は着衣のまま下半身だけめくってセックスに及んでいるため、乳房は見られない。そのため、「春画の世界では、おっぱいは性の対象ではなかった」という考察はこれまで何度も説かれてきた。

 しかし、最近の研究結果をもとに本書はこれを否定する。乳房ではなく、乳首なら相当な事例が見つかっているという。例えば、徳川将軍の御用絵師である狩野彰信の「天癸両濫」は、のけぞる女の突き出された乳首に男が吸い付いている構図だ。他にも、男に乳首を吸われることで忘我の表情を見せる女の春画なんかも発見されている。このような資料から、本書は「乳首を吸う」ことが江戸では性的テクニックのひとつとして認識されていたのではないかと推測する。

■これからの時代のおっぱい。「女性性を象徴するバストから、愛と癒しのおっぱいへ」

 現代の10代から30代の若い女性は、親世代や社会が押しつけてくる「女らしさ」よりも、「自分らしさ」を求める傾向があるとしたうえで、これからの時代のおっぱいのあり方を象徴するような出来事を本書は紹介している。

 それは、2016年にユニクロと大手下着メーカーがそろって発売した「サードウェーブブラ」だ。

苦しい思いをしてまで、バストを寄せて上げて作りこむなんてまっぴら。とにかく楽が一番。そもそもバストの大小で「女度を測る」なんて前世紀の発想。多少垂れ下がっていても、左右が離れていても、小ぶりでも、自然のままに見せる方がかっこいい。女性たちのそんな思いがサードウェーブブラには現れている。

 近代以降、女性は“男性からいい女として見られる”ようなバストづくりに励み、また男も豊かで整ったバストを“いい女の象徴”として見てきた。しかし今はどうだろうか? 男の性欲は動画やゲームなどのバーチャル空間で満たすこともできる。子どもを産み、授乳するとは限らない。そんな21世紀のおっぱいは、愛と癒しの象徴となる「おっぱい」へと変わっていくのかもしれない。

 本書には、上のご紹介のみならず、中国や西洋の歴史の中でのおっぱいの研究や、「乳神神社」などのおっぱいに関するコラムも充実している。男女関係なく、おっぱいを愛しく思う人にはぜひ薦めたい1冊だ。

文=K(稲)